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ただ、触れたくて 2
やがて2月、バレンタイン・デーだ。
今日は合唱コンクール当日だというのに、想には誰か好きな人がいるのだろうか、想が誰かに告白されたらどうしよう。そればかりが気になって仕方が無く、そわそわしていた。
「駿……、駿……聞いているのか」
「え? あぁ父さん、ごめん、何?」
「合唱コンクールのパンフレット、見たぞ。駿が指揮者なんて、珍しいな。どういう風の吹き回しだ?」
父さんに突然突っ込まれて、答えに窮してしまう。
何故なら、俺には下心があるからさ。
「私、知ってるよ! それはね~ お兄ちゃんのだーい好きな想お兄ちゃんが、ピアノを弾くからでしょう」
うっ、図星だ! だが照れ臭い!
「うるせ! そんなんじゃないよ。それに想は、お前の兄じゃないぞ」
「えー 想くんみたいな綺麗で優しいお兄ちゃんが欲しかったよ。お兄ちゃんなんて全然モテないくせに~」
「なんだと⁉」
「もう、あなたたちってば、朝から喧嘩しないの」
母さんが、いつも兄妹喧嘩の仲裁だ。でも妹もまだ少しは可愛いところあって、「お兄ちゃん、さっきはごめんね。これあげる。一つももらえないと可哀想だもん」って、手作りのチョコが入った袋を持たせてくれた。
口うるさい妹だが、お菓子作りは得意だ。
「サンキュ! 美味しそうだな」
「うふふ」
妹からのチョコを持って、家を出る。
吐く息は白く雪でも降りそうな寒空だったが、俺の心はポカポカだった。
何故なら、今日は合唱コンクールだから朝練がない。つまり想と久しぶりに一緒に登校できるんだ。
交差点の向こうに、青いマフラーに顔を埋めた想を見つける。
「駿、おはよう!」
信号が変わるとタタッと駆け寄ってくれるその手には、何故かカイロを持っていた。
「はい、これっ」
「え?」
「駿はいつも手袋をしないから……その……手がかじかむと……指揮棒を持つのが震えて困ると思って……だから僕が温めておいたんだ」
カイロの温もりより想の温もりを感じたくて、急いで受け取った。
ほかほかだ!
「サンキュ、想は寒くないか」
「あ……うん」
想も手袋をしていなかった。だが、それを悟られまいとポケットに手をサッと隠してしまった。
「想……」
「ん?」
照れ臭そうに頬を上気させている想の顔、可愛くて息が止まりそうだ!
ポケットの中まで、想の手を追いかけたい衝動に駆られる。
そんなことしたら、驚くだけだろう。
小さい頃……想が公園で派手に転んで、膝を擦り剥いて泣いた。
家まで泣き止まずにグズグズだったので、俺が手を引いてやった。
手をギュッと握ってやった。
あんな風にまた握ってみたいよ。
「想は手が冷たくないか」
「……大丈夫だよ。久しぶりに駿と一緒に行けるのが嬉しいから」
それって……答えになっているような、なっていないような。
淡い、淡い……俺たちだけの通学路。
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