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ただ、触れたくて 5 

 次に想と二人きりになれたのは、春の兆しが見え始めた三月だった。  期末テストの最終日、早い下校時間。  偶然、駅で会えた。 「想!」 「駿!」  俺たちの間には、ただ名前を呼び合うだけで、いつでも戻れる場所がある。  一緒に乗った電車の揺れが、心地良い。  どんどん流れる景色を見ていると、心が弾んでくるよ。 「想、今日の数ⅡBのテスト、俺、最悪だった」 「うん、最後のベクトルの問題は難問だったね」 「想でも?」 「うん、手こずったよ」 「だよな~」 「ふふっ」  今日の会話は、とてもいい感じ!  ところが俺の隣でニコニコと相槌を打ってくれていた想が、いつの間にか船を漕いでいた。さては昨日徹夜したんだな、努力家だから。  触れる……触れない。  触れない……触れた!  まるでメトロノームみたいに俺の肩にあたるのは、想のサラサラな髪と柔らかな頬。  うう……参ったな、想の寝顔が可愛すぎるぞ。  あぁ俺の初恋はどこまで膨れ上がって、どこまで上昇するのか。  もう、はち切れそうだ。 ****  久しぶりに駅で駿と会えた。  一緒に帰るのは、合唱コンクールの時以来で、あの日もらったチョコレートの甘さは、まだ心の奥に甘い余韻として残っている。  今日は他愛もない話が弾んで、心地良い。でも……少しだけ眠い。  もしも寝てしまっても、駿がいれば大丈夫だよね?  そんな不思議な安心感からか、瞼が重たくなってきた。 「想、想……着いたぞ」 「え? ごめん、寝ちゃった」 「それより早く降りよう!」    駿に手を引っ張られて、電車を急いで降りた。  その勢いに目眩がして、眼前がサーッと暗くなった。  まずい…… **** 「……貧血かも……」  ホームで突然、想がふらついた。 「大丈夫か、掴まれよ」 「ご、ごめん……」  俺の肩にまわる細い腕、頬を掠めるサラサラな髪。  俺の心臓は、こんな状況だというのに不謹慎に跳ねていく。  トクン、トクン――  これは初恋が……時計の秒針みたいに恋を刻む音だ。  進め! 俺の初恋!  少し迷いながらも、想の背中をしっかり支えてやった。 「しゅん……ほっとする」  耳元に届く甘い吐息。  血の気が戻ってきた頬の色。  至近距離で目があって、今度は俺が倒れそうだ。  この色づく初恋を、ギュッと抱きしめたい!

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