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【再会編】10年越しの初恋 1
空港から家に戻ると、想から借りたノートが机の上に残っていた。
開けば……想の丁寧で優しい文字の羅列。
気付けば……最後に俺宛のメッセージ
……
駿の役に立てて嬉しいよ。返すのはいつでもいいよ。
……
優しい想だから、何も言えなかったのだろう。
あんなことをした俺を責めることもなく、ひっそりと消えてしまった。
だが、空港で空耳が聞えたのだ。
『駿……駿……僕は……』
俺を切なく呼ぶ想の声が。
いつかその続きを聞かせてもらえないか。
今は何も出来ないのがもどかしくて、白紙部分を切り取って紙飛行機を作った。
一つ、二つと、二階の俺の部屋から青空に放つ。
想、また会いたい。
また、会えるよな?
いつか、もっと大人になって再会したい。
その時は、ちゃんと愛を伝えたい。
そんな願いを込めて、想が飛び立った空に向かって、願いを何度も何度も届けた。
青空にぷかりと浮かぶ白い雲に、想の純真な笑顔が重なった。
やがて夏休みが終わり、2学期が始まった。
もしかしたら想がいるかもしれないとクラスを覗くが空席で、虚しかった。
大人しく目立たない存在だった想は、その後どんどん皆の記憶から消えていった。
だが……皆が忘れても、俺は想を忘れない。
想は、俺にとって『初恋』の相手だ。
やがて月日は緩やかに流れ出す。
想のいない世界に、俺も次第に慣れていく。
都内の大学に進学し、新しい友人も沢山出来た。
それなりに楽しい日々。
サークルに飲み会、何人もの女性から告白もされた。
最初は断り続けたが、想を見失って3年……俺も寂しさが限界で付き合ってはみたが、どうしても彼女にキスだけは出来なかった。
それが原因で振られた。
「なんでキスしてくれないの? 私のこと愛してないんでしょう! もういい! こっちからサヨナラよ」
ビシッ――
もう、何度目だろう。こうやって振られるのは……
女性から頬を叩かれ、目が覚める。
キスをしようとすると、あのトンネルでの出来事を思いだして、身体が固まってしまう。俺がキスしたいのは、まだ想なのだ。
「俺……結局……まだ想が好きなんだ。何年経っても忘れられない」
その後の月日の流れは早かった。
気付けば、俺はあっという間に28歳になっていた。
大学を卒業して、飲料メーカーに5年勤めている。
満員電車にガタゴトと揺られ、キツいネクタイを少しだけ緩める。
四角い窓から見上げる青空に、あの日空港で見上げた空を久しぶりに思い出した。
想……一体今、どこにいる?
結局一度も帰国しなかったな。
一度も会うこともなく、もう10年という月日が過ぎてしまったじゃないか。
もうこのまま一生会えないのか。
だから心の中で、紙飛行機を飛ばした。
『想……会いたかったよ』
俺の左手薬指には、真新しい指輪が……朝日を浴びてキラリと輝いていた。
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