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10年越しの初恋 4 

 日本には、実に10年ぶりに帰国した。  僕は空港を出ると真っ先に、日本の空を見上げた。  10年前、押し潰されそうな心を抱いて飛びだった空は、もう色褪せてしまったが、今日の青空は爽快だね。  ふと……駿も今、同じ空を見上げているような気がした。  駿、青空を追いかけるように浮かぶ白い雲は、僕だよ。  ようやく駿の元に帰って来たよ。  10年という月日をかけて、あの雲のように心を膨らませて戻って来たよ。  どうか、どうか……間に合いますように――  運命よ……どうか僕の味方をして欲しい。  僕が就職した会社は食料品の商社で、東京本社で配属された部署は飲料部門だった。  この度、大手の飲料メーカーとコラボして、飲むだけで世界旅行気分を味わえるクラフトビールを開発することになり、そこで英国と米国に長い期間在住していた僕が呼ばれたようだ。 「白石くん、早速だが、今回のコラボ先の企業との挨拶をかねたミーティングに行くぞ」 「はい!」 「おっと、悪いが俺は1件用事を済ませてから行くから、先に行って資料をセッティングしておいてくれるか」 「畏まりました」   **** 想を空港で見送ってから、10年経った。  あの日空港で見上げた空の色は、流石にもう色褪せてしまった。  だが、俺が今見上げる青空は、抜けるように綺麗だ。  青空を追いかけるような形の白い雲に、想を想い出す。  あの日、はぐれた心は今どこにある?  想――  俺は待っている。  お前の心が戻ってくるのを。   「青山、お前を新規プロジェクトメンバーに抜擢する」  先月嬉しい辞令をもらい、ずっと仕事に励んでいるんだ。 いつ想に会っても恥ずかしくないように、俺は自分を磨いているのさ! 「青山、10時から相手先とミーティングだから、先に会議室の準備をしておいてくれ」 「はい!」    会議室でひとりで資料を並べていると、何か予感がした。  耳を澄ませば、よく聞き慣れた足音が……そして馴染みのある気配を感じた。  これは幼い頃から、いつも俺の隣りにいてくれた、優しい空気だ。  ま、まさか――   

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