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10年越しの初恋 5

「ふぅ、初日からバタバタだな」  僕は重たい書類を抱えて電車に乗った。  懐かしい日本の風景が、通りすぎていく。  車中で思い出すのは、駿のことばかり。    最後に一緒に乗ったのは、いつだった?  僕の中では、駿にもたれて眠ってしまった日だよ。  あの日の僕らは、距離が近かったね。  とても近かったのに、掴めなかった心が……今となってはもどかしいよ。  早く週末になれ!    僕は駿の家を訊ねるつもりだよ。  駿に会いに行くよ。  今度は……僕から駿に伝えたい言葉がある。  だから待っていて。  目的の会社に着き、受付を通り、会議室に案内してもらう。 「あちらのC会議室です。どうぞ」 「ありがとう」  もしも僕があのまま日本にいたら、今の会社には就職していなかっただろう。引っ込み思案で大人しかった僕が、営業や企画を積極的にしていると知ったら、駿は驚くだろうな。  なぜ、この仕事を選んだかって?  それは、駿に会える可能性が高いだからだよ。  駿の将来の夢を知っている、幼馴染みの僕だから出来たこと。 「あれ?」  会議室には先客がいた。  正確には、この会社の若手社員のようだ。  僕に背を向けていて何か作業をしている。  逆光だからよく見えなかったが、僕の心が教えてくれた。  あれは駿だ……  本当に駿だ。  間違えるはずがない!  運命が歯車が、今、回り出す。 「駿……会いたかったよ」   ……  俺たちの再会は、突然やってきた。 「駿……会いたかったよ」 「そ……想っ! 本当に想なのか!」  想は高校時代の面影を色濃く残した顔で、取引先の相手として突然現れた。  目を見開いて驚いた後、ふっと、嬉しそうに微笑んだ顔は、俺が好きだったお前のままだ。  東京のど真ん中で、俺はまたお前に恋をする!   何度でも恋をする!

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