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10年越しの初恋 6
実に、10年の時を超える再会だった。
目の前にいるのは、僕の10年越しの初恋相手だ。
今すぐ駆け寄って、駿に触れたい。
生身の駿が目の前にいるんだ! 我慢できないよ。
だが一歩足を踏み出した所で……唇をキュッと噛みしめ思い留まった。
駄目だ……今は仕事中だ。冷静にならないと! もうすぐ会議室に人が集まってくる。感情の赴くまま動いて、ここで失敗はしたくない。でも駿を素知らぬふりなんて到底出来ないよ。
沸き上がる感動を、どこに置けば?
そんな僕の気持ちを、駿が受け取ってくれる。
「想っ、ちょっといいか」
駿が会議室を出て行ったので慌てて追いかけると、辿り着いたのは内階段の踊り場だった。
駿が目の前に立ったので、僕は駿を真っ直ぐに見上げた。
もう逃げたりしない。
この身長差が懐かしい。
とても近い距離にいるのに……触れたいのに、触れられないなんてもどかしいよ。
「そ、想……今までどこにいたんだ? 何で急にここに?」
「駿……ごめん。ずっと海外に……実は昨日英国から帰国したばかりなんだ。ここへはプロジェクトの挨拶とミーティングで来たんだよ」
「まさか! 今日参加予定の精鋭社員って想のことか。英国から呼び戻した……今回の企画の発案者って」
そんな触れ込みで僕が選ばれたなんて、感動した。
「僕のことかも……あっ、すごい営業センスがいい社員が相手方にいるって聞いたけど……駿のことだね」
「想……俺の夢を覚えていてくれたのか」
じわりと、二人の時が戻ってくる。
「もちろんだよ! 世の中に新しいものを生みだして、いろんな人に体験してもらいたいって……夢を届ける仕事がしたいって。僕は駿の夢に関わる仕事をしたくて、この職に就いたんだ。やっぱり……僕の勘は当たっていたんだね」
「想……やばい。俺……勘違いしそうだ」
「勘違いなんかじゃない……僕は……」
僕が一歩踏み出せば、駿も一歩踏み出す。
いよいよ抱擁の時が近づいている……
「想……俺はずっと」
「駿……僕もずっと」
と言いかけた所で、踊り場の扉が突然開いた。
僕たちは慌てて一歩ずつ離れた。
「こんなところにいたのか。会議の準備を放り投げて何してんだよ?」
「悪い! 今、行く」
駿が耳元で、優しく囁く。
「想……今日の夜、時間あるか。お前と話したい」
「僕も――僕もだ」
ミーティングの間は、仕事に集中した。
僕の姿を……僕の10年を、駿にしっかり見て欲しくて。
我慢の限界まで……我慢した。
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