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10年越しの初恋 7
ミーティングの間、ずっと心臓がバクバクしていた。
想が俺と同じ空間にいる。
俺と俺と同じ仕事をしている。
想、想――っ
頭の中が、気を抜くと想で埋め尽くされそうだ。
仕事に集中するのが、こんなに大変だなんて。
「お疲れさまでした。これ、次回の資料です」
「あ……ありがとうございます」
古典的な方法で、俺は想に約束を取り付けた。
会議資料にクリップでつけたメモで、バーに誘った。
『今夜19時に新宿プラザホテルの27階のバー・シリウスで会おう!』
夜が待ち遠しかった。
恋い焦がれて、こんがらがって駄目にした恋。
それでも諦め切れずに、暖め続けてきた恋。
寒い冬が通り過ぎれば、出会うものがある。
春がやってくると、信じていた。
大都会の夜景を見下ろすバーのカウンターに座っていると、想が静かにやってきた。
想は、濃紺のスーツに、同系色のシックなネクタイ。
ストイックな印象は変わらないが、10年という月日によって、更に大人の男としての凜々しさが加味されていた。
面影は変わらないが、想は確実に大人になっていた。
「駿……待った?」
想が照れ臭そうに目を伏せると、長い睫毛が都会の灯りに揺れていた。
「いや、今、来たばかりだ。何を飲む?」
「あ……あの『オリンピック』を飲もうかな」
「ん? 何だ?」
「カクテルの名前だよ。これには大切な意味があるんだ」
出されたカクテルはブランデーにオレンジ・キュラソーとオレンジジュースを混ぜたものだった。
柑橘の爽やかな香りとブランデーの大人っぽい香りが漂う。
「駿、このカクテルの意味はね『待ち焦がれた再会』だよ」
「想……」
俺のこと……待ち焦がれてくれたのか!
あぁ、もうこのまま一気に告白してもいいか。
今なら大丈夫か。
「駿、まずは……再会に乾杯しようか」
「おぅ!」
ところが運命の再会を祝ってグラスを傾けた時、想の視線が突然停止した。そこから明らかに顔色が悪くなり、声が低くなってしまった。
「まさか……駿は……結婚してしまったのか」
視線を辿ればすぐに思い当たる。
この左手薬指の指輪のことか。
「これ? 違うよ。勝手にしているだけ」
「ど、どうして?」
「それは……想の席を取って置いた」
「えっ、本当に……それって……嬉しいよ」
想の安堵した表情に、俺も安堵した。
嬉しいって今、言ってくれたよな。
その言葉に勇気をもらった。
十年ぶりの告白は、深呼吸してさり気なくだ。
絶対に想を怖がらせない。
落ち着け、落ち着け――
「想……今なら良い返事をもらえそうか」
すぐに想は耳朶まで真っ赤にして、コクンと頷いてくれた。
あぁ、ようやく実るのか……俺の初恋!
幸せだ!
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