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10年越しの初恋 9

 カウンター下で、想の温もりを感じて、満ち足りた心地だった。  想に最後に触れたのは、あの夏のトンネルだった。  無理矢理キスしようとして、抵抗され、跳ね返された冷たい手だったのに……今は想からも握りしめてくれるのか。  それが嬉しくて、都会の夜景が、じわりと淡い水彩画になっていった。 「駿……今、もしかして……泣いている?」 「い、言うな!」 「恥ずかしがらなくていいよ。だって……僕も泣いているから。嬉しくて……」  そう言って俺を見つめる想の瞳には、星がキラキラと瞬いていた。 「想……その、早速だが……今度の週末、空いているか」 「空いているよ。元々、駿を探しにいこうと空けていたんだ」  なんて嬉しいことを……  想の気持ちが、さっきから優しくて溜まらない。    高校時代には俺だけが必死になって焦って追いかけていた恋だったのに、今は想が一緒に歩いてくれているようだ。 「駿……僕ね、アメリカに行ってから……高校時代のことを、いろいろ後悔したんだ。だけど、もう過ぎたことで、どうしようもない。あの時こうしておけばというルートは、この10年何度も考えたが、過去は変えられなかった。だからね、決めていたんだ。駿と再会出来たら、自分から変わろうって。だから……今から変わるよ。僕は――」  儚げだった想の横顔には、凜々しさが宿っていた。  ますます俺好みの男になって戻ってきてくれて、最高だ。 「ありがとう。俺たちは今、同じ場所にいるんだな」  カウンターの下で、想の手をギュッと握ってみると、想もフッと微笑んで握り返してくれた。  あぁ、本当に幸せだ――   「週末にデートしよう! 駿!」 「想! ちょ、ちょっと待てよ。それは俺の台詞だそ」 「くすっ、駿の台詞は僕の台詞だよ。僕たちは今……同じ場所にいて同じ道を歩んでいくのだから」  初めてのデートの場所は、もう決めていた。  ずっと前から決めていた。  あの苦い夏の日からやりなおしたいと。 「想、江ノ島に行こう!」 「駿、江ノ島がいいよね!」  ほら、声が揃う!

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