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10年超しの初恋 11

 想を駅で見送って、ひとり電車に乗った。 「あっ、しまった! 連絡先だけ聞いて、どこに住んでいるのか聞くの忘れたな」  俺、興奮し過ぎだ。  だが……今日は夢のような1日だった。  10年ぶりに想に会えたんだ。  それだけでも嬉しいのに、想と仕事を一緒に出来、想と飲みに行けた。  しかも……信じられないことに、想と付き合うことになった!  こんな嬉しいことって、あるのか。  胸の鼓動が、また一段と早まった。  想に伝え忘れたが……俺は就職と同時に会社の独身寮に入った。しかも実家も引っ越してしまったので、週末に想が俺を探しても、すぐには見つからなかっただろう。  想は、今どこに住んでいる?  新宿から下りの小田急線に乗ったようだ。  ということは……もしかして……。  あぁ待ち遠しい。  週末が待ち遠しい。  初めてのデートは、江ノ島に。 ****  駿に見送られて電車に乗った。  高校までは地元メインで都内に出ることなど滅多になかったので、夜に新宿から下りの電車に乗るのは、初めてだ。  帰る人で混雑しているが、少しも気にならない。  僕の心はもっと上へ上へと、上昇しているから。  今、雲の上にいるみたいだ。  僕、本当に駿と付き合うことになったんだ。  バーで、驚く程自然に頷いていた。  駿――  駿が今も僕を変わらず想っていてくれたなんて、信じられない奇跡だよ。  駿の気持ちに応えるのではなく、僕も駿と同じ熱量なんだ。  それをしっかり伝えていきいたい。  あ……駿は一緒に電車を乗らなかったということは、もう実家を出ていたのか。本当によかった。今日奇跡的に会えて……  運命は僕らの味方だ。  駿と繋いでいた手を見つめると、照れ臭くなった。  薄暗いバーだったとはいえ、男同士ずっとカウンターの下で手を繋いでいるなんて。 昔の僕だったら、出来なかったことだ。  でも今は、大丈夫。  この10年間、僕は海外で様々なシチュエーションを目の当たりにして、動じなくなったし、駿への思いは、とても自然で恥じるようなことでないと思っている。 「母さん、ただいま」 「想、帰国早々、遅かったのね」 「駿に偶然仕事先で会えたんだ。それで……」 「まぁ! よかったわね!」 「うん」 「それで、二人で飲んで来たのね?」 「なんで分かるの?」  母が魔法使いだと思う瞬間だ。 「だって、すごく上機嫌だし、お酒の匂いをさせているから」 「『オリンピック』だよ」 「え?」 「飲んだカクテル」 「まぁ、想ってば……ロマンチスト!」  母には駿のことを告白済みだ。  母も海外で長く暮らすことによって、理解を深めてくれた。 「想、良かったわね。おめでとう」 「ありがとう、母さん」  駿……  僕はね、この10年間、駿と歩く道を耕してきたんだ。  だから大丈夫。  あの頃越えられなかった壁はもう、ないんだ。  平らな歩きやすい道になっているんだよ。

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