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ふたりの初恋 3
テーブルに置かれたピザは端がカリカリで、しらすとチーズがたっぷり盛られていた。
「わぁ、とても美味しそうだね」
「だろっ、俺のお墨付きさ」
あぁ……笑うと途端に凜々しい顔から人懐っこくなる駿の笑顔……懐かしいな。僕がいつも一番近くで見ていたのに、あの日を境に一番遠くになってしまった笑顔を掴まえる。
懐かしくて嬉しくて……
目を細めてじっと見つめていると、駿が怪訝な顔をした
「何かついてる?」
「なんでもない」
「食べないの? 冷めちゃうぞ」
「食べるよ」
口に入れると磯の香りとチーズが相まって絶品だった。
「わっ、すごく美味しい!」
「よかった! 上品な想の口に合って」
「……上品だなんて」
「いつも想の家は雲の上のようだったよ。想の家に遊びに行くと、冷たいじゃがいものスープとかパイ包み焼きとか出て来て……驚いた」
「お母さんはお料理教室に行っていて、それを披露するのが趣味だったんだ。駿は……特別だったから」
「え?」
「僕ね、昔から駿の話ばかり家でして……だから……お母さんも張り切って」
なんだか照れ臭いよ。
でも本当にそうだ。
人見知りな僕に転校初日から優しくしてくれた駿。
いつだって傍にいてくれて……好きにならずにはいられなかった。
駿はいつだってクラスの中心で、爽やかで凜々しかった。
高校では僕は天文部で、駿はサッカー部だったね。天文部は日が暮れるのを待って活動することがあり、そんな時は夜まで練習していた駿と帰り道が一緒になって、あれは嬉しかったな。
「想、何を考えている?」
「高校生の頃、たまに部活の後、一緒に帰ったよね」
「あれは嬉しかったな。練習後のご褒美だった」
「駿も……そんな風に思っていてくれたの?」
「もちろんだよ。あ、そろそろ帰るか」
「ん……」
白いカフェの名前は『bianco』
ここは僕にとっても大切な場所になる。
あの日、飛行機の窓の外には青空が広がっていた。
快晴だった。
青空のように爽快な君に、空に浮かぶ白い雲のように自然と寄り添うことが出来れば……どんなに良かったことか。
そんな戻れない現実を抱えて飛びだったんだ。
外国で暮らしている間も……ふと空に浮かぶ白い雲に乗って、駿に会いに行きたくなっていたんだよ。
「駿……駿……」
あの日は消え入るような声で君を呼ぶことしか、出来なかった。
でも今は違う。
声は届く。
「どうした?」
「……あと少しだけ……駿と一緒にいたくて」
「想……俺もだ。俺も同じ気持ちだ」
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