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ふたりの初恋 4
「想、俺さ……行きたい場所があるんだ」
「うん、駿に付いていく」
想の最寄り駅を通り越したが、優しく頷くだけで何も言わなかった。
静かな同意が、心地良い。
目的地は俺たちの通った高校だ。
波打ち際まで徒歩1分。
教室の窓からはいつも青い海を見渡せた、青春が青い空に輝き、青い海に煌めく場所だった。
由比ヶ浜で下車し通い慣れた細い道を歩くと、懐かしい校舎が見えてきた。
「わぁ……懐かしいな……駿は?」
「俺も久しぶりに来たよ」
「……また駿と見られるなんて」
隣りで目を細めて校舎を見上げる想の横顔が綺麗過ぎて、また胸がドキドキしてきた。あの日……後夜祭のキャンプファイヤーの炎を浴びた時のように、身体が火照ってきた。
俺……今日……想の唇に触れたんだ。
まだ信じられない奇跡。
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あの夏、途中下車するように逃げ出してしまった僕の青春。
父の急な海外赴任が決まり、誰にも挨拶することなく消えてしまった場所に、また立てるなんて。しかも駿と肩を並べて。
このざらついた砂の感触も懐かしいな。
懐かしい校舎が見える砂浜で足下を見つめていると、駿が僕の正面に立ち、顎に指をかけてきた。
「想の顔、もっと見せてくれ」
「あ……っ」
上を向かされると、あまりの至近距離に緊張した。ぐらりとバランスを崩しそうにると、すぐに駿の逞しい手によって背中を支えられた。
「おっと、大丈夫か」
「う、うん」
「ずっと……想と……こんな風に見つめ合いたかったんだ」
「駿……僕も……僕だって同じだよ。いつだって気持ちは揃っていたのに、本当に、逃げたりして、ごめん」
「もう謝るな。今は同じ場所に立っているんだ」
「そうだね」
僕の方からも、駿に手を伸ばした。
僕だって、同じ気持ちだ。
ずっと思い描いていた駿の凜々しい顔と逞しい身体。十年離れている間、何度記憶で辿ったことか。
「想のここに、また触れたい」
「うん、僕も……」
僕の顎を掴んでいた駿の手が、ゆっくりと動き出す。
男らしい指先が信じられないほど優しい仕草で、僕の唇を撫でていく。
そのまま、お互いに顔を寄せ合って。
重なる唇は熱を孕み、甘い吐息が行き交う。
これが初恋の味だ。
きっと何度しても同じ味がするのだろうね。
僕たちは、この先もずっと初恋を重ねていくのだから。
あとがき(不要な方は飛ばして下さい)
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今日の後半の優しいキスシーンは、表紙絵の雰囲気をイメージして書かせていただきました。この後も彼等のキスは、きっと何度しても初恋の味しかしませんよね💕
甘くて優しい恋の話……もう少しお付き合いください。
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