33 / 161
ふたりの初恋 6
「想、ご飯は?」
「あ……駿と食べてきたんだ」
「そうだったのね」
「もしかして作ってくれたの?」
食卓を見ると、僕の箸が綺麗に並んでいた。
「……本当のことを言うとね……今日、想がどんな顔で帰ってくるのか、心配していたの」
お母さん……
あの日……僕の気持ちを打ち明けた日から、ずっと見守ってくれていたんだね。
反対もせず……怒りも嘆きもせず、ただ静かに受け止めてくれていた。
お母さんの存在が、どんなに大きかったことか。
「ありがとう。あのね、今日行ったお店、しらすのピザが美味しかったんだ。今度お母さんも連れていくよ」
「まぁ嬉しいわ。あなたは相変わらず優しい子ね」
「お母さんも気に入ると思うよ。白でまとめられた内装で、とても落ち着く場所だったんだ」
「楽しみにしているわ。さぁ明日も会社でしょう。早く寝なさい。ここから都心に通うのは大変なんだから。お母さんも眠るわ」
「そうするよ。おやすみなさい」
洗面所で、鏡の中の自分と目が合った。
そのまま自分の唇をじっと見つめると、顔が火照った。
あの日とは真逆だ。
高校時代、突然駿にキスされそうになって突き飛ばしてしまったあの日とは……
あの時は鏡を見ると泣き腫らした目をしていて、自分の唇に戸惑ってしまった。想が欲しがった場所なのに、ただの男の唇にしか見えなかったから。
(駿……本当にここが欲しかったの?)
今なら、分かる……
僕は今日……駿の唇が欲しかった。
そっと自分の唇を、指の腹で撫でてみた。
さっき駿がしてくれたように。
目を閉じると、至近距離で見つめ合った駿の顔が浮かんでくる。
唇を重ね合うだけのキスだったのに、自分の声とは思えない艶めいた声を出していた。それを思い出すと恥ずかしくなり、鏡の中の顔がますます赤く染まった。
僕……今、恋をしているんだ。
その晩は何度も何度も夕日を挟んだキスと、月明かりのキスを思い出して、寝付けなかった。
駿……駿にまた会いたい。
****
参ったな。
最高の1日だった!
今日1日で、想と二度もキス出来た!
電車の中で、俺はその喜びをひしひしと感じていた。
この時間、東京へ向かう電車は空いているから、少しくらい頬を緩ませても大丈夫だろう。
あの日触れられなかった想の唇は……想像よりずっと柔らかく、しっとりしていた。お互いの皮膜を濡らしあうような甘いキスをだった。まだ唇を重ね合うだけの優しいキスだったのに、止まらなくなりそうだった。
想は逃げたりせず、むしろ自分から重ねてくれた。
それが嬉しくて溜まらなかった。
この先は、想と一緒に初恋を叶えていくんだ。
いい風が吹いている。
近々プロジェクトのミーティングで、再び想と顔を合わせる。
仕事でも、よろしくな‼
ともだちにシェアしよう!