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ふたりの初恋 6

「想、ご飯は?」 「あ……駿と食べてきたんだ」 「そうだったのね」 「もしかして作ってくれたの?」  食卓を見ると、僕の箸が綺麗に並んでいた。 「……本当のことを言うとね……今日、想がどんな顔で帰ってくるのか、心配していたの」    お母さん……  あの日……僕の気持ちを打ち明けた日から、ずっと見守ってくれていたんだね。  反対もせず……怒りも嘆きもせず、ただ静かに受け止めてくれていた。  お母さんの存在が、どんなに大きかったことか。 「ありがとう。あのね、今日行ったお店、しらすのピザが美味しかったんだ。今度お母さんも連れていくよ」 「まぁ嬉しいわ。あなたは相変わらず優しい子ね」 「お母さんも気に入ると思うよ。白でまとめられた内装で、とても落ち着く場所だったんだ」 「楽しみにしているわ。さぁ明日も会社でしょう。早く寝なさい。ここから都心に通うのは大変なんだから。お母さんも眠るわ」 「そうするよ。おやすみなさい」     洗面所で、鏡の中の自分と目が合った。  そのまま自分の唇をじっと見つめると、顔が火照った。  あの日とは真逆だ。  高校時代、突然駿にキスされそうになって突き飛ばしてしまったあの日とは……  あの時は鏡を見ると泣き腫らした目をしていて、自分の唇に戸惑ってしまった。想が欲しがった場所なのに、ただの男の唇にしか見えなかったから。 (駿……本当にここが欲しかったの?)  今なら、分かる……  僕は今日……駿の唇が欲しかった。  そっと自分の唇を、指の腹で撫でてみた。  さっき駿がしてくれたように。  目を閉じると、至近距離で見つめ合った駿の顔が浮かんでくる。  唇を重ね合うだけのキスだったのに、自分の声とは思えない艶めいた声を出していた。それを思い出すと恥ずかしくなり、鏡の中の顔がますます赤く染まった。  僕……今、恋をしているんだ。  その晩は何度も何度も夕日を挟んだキスと、月明かりのキスを思い出して、寝付けなかった。  駿……駿にまた会いたい。 ****  参ったな。  最高の1日だった!  今日1日で、想と二度もキス出来た!  電車の中で、俺はその喜びをひしひしと感じていた。  この時間、東京へ向かう電車は空いているから、少しくらい頬を緩ませても大丈夫だろう。  あの日触れられなかった想の唇は……想像よりずっと柔らかく、しっとりしていた。お互いの皮膜を濡らしあうような甘いキスをだった。まだ唇を重ね合うだけの優しいキスだったのに、止まらなくなりそうだった。  想は逃げたりせず、むしろ自分から重ねてくれた。  それが嬉しくて溜まらなかった。  この先は、想と一緒に初恋を叶えていくんだ。  いい風が吹いている。    近々プロジェクトのミーティングで、再び想と顔を合わせる。  仕事でも、よろしくな‼  

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