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ふたりの初恋 7
「白石様、お待ちしておりました。本日のミーティングはB会議室になります。こちらをかざしてお入り下さい」
「ありがとうございます」
来館者用のネームプレートを受け取って、僕は駿の働く会社の中に入った。
ここを訪れるのは二度目。
前回は十年ぶりに駿と再会した日だった。
あれから直接出向いての打ち合わせはなかったので、今日は朝からずっとドキドキしていた。
お母さんに「想ってば、今日はずいぶんお洒落しているのね」と、笑われてしまう程にね。本当に近いうちに、母には駿と会って貰いたいな。
「ふぅ……手が痺れるな」
上司はいつも通り後から来ると言うので、僕はまた大荷物を持たされていた。今日はビールに合う食品サンプルもあるので、かなり重たい。大量の配布資料を抱えてのろのろと歩いていると、突然軽くなった。
「重そうですね。持ちますよ」
「……!」
濃紺のスーツをビシッと決めた駿がいつの間にか並んで歩いていて、息が止まりそうになった。
「あ、ありがとうございます」
社内の狭い廊下はすれ違う人も多く、仕事中なので僕らの会話はぎこちない。でも変わらぬ駿の優しさが嬉しかった。
そういえば高校時代、先生に頼まれて大量の配布プリントを抱えて廊下を歩いていると、こんな風に駿がやってきて手助けしてくれた。
だから言葉を付け足したくなった。
「いつも……ずっと……ありがとう」
「あ、あぁ……」
顔を上げると、駿の唇に目が行きそうになって、慌てて目を逸らした。
そこは……僕に触れた、僕が触れた神聖な場所。
打ち合わせは前回とは違って、グループディスカッションだった。
僕の相手は、駿の部下の女の子。
駿の相手は、僕の上司。
そう何もかも思い通りにいかないのは、よく知っている。
「白石さんって、英国育ちなんですかぁ」
「えっと、僕は日本生まれですが17歳で父の赴任でアメリカに……大学卒業後……就職してからはずっと英国勤務で……」
「うわー! その物腰の柔らかさは、やっぱり英国仕込みなんですね。だからそんなに紳士的なんですよね。皆、格好いい人が来るって噂していましたよ。羨ましがっていました」
「え?」
どう返答していいものか苦笑すると、駿の視線を感じた。
駿……どうか心配しないで……僕には駿しか見えていないよ。
アイコンタクトで通じたかどうか分からないが、僕の気持ちは少しも揺らがない。それよりも駿と同じプロジェクトに関われる喜びを噛みしめていた。
僕が企画した『英国人に馴染みのビールを、少しだけ日本人向けにアレンジして、我が社の食材とコラボして売り出すというプロジェクト』は、昔、駿と話したことにヒントを得ていた。
……
天文学部とサッカー部。
僕と駿の間には……共通の部活の話題はなかったが、よく共通の将来の夢を語り合っていた。
「想の家のご飯って本当に美味いよな。俺は飲み食いが大好きだから、将来はそういう仕事に就きたいんだ」
「いいね。僕も好きだよ」
「そ、そうか……想も好きか。じゃあさ、いつか世界中のビールを一緒に飲もうぜ。でも現地のビールって結構癖がありそうだから、美味しくは飲めないのかな?」
「どうだろう? 日本人向けにアレンジしたり、日本の食べ物との相性を考えると上手くいくんじゃないかな……まだ飲んだことないから分からないけど」
「ふぅん……飲み物と食べ物が歩み寄るのか。じゃあ想は食べ物担当で、俺は飲み物な。二人でいつかタックを組もうぜ!」
「いいね! 駿となら上手くいきそう」
……
そんな約束までしていたのに、途中で逃げ出して本当にごめん。
でも、向こうで海外の食べ物を口にする度に、あの約束が駿と再会できる道標になると信じていた。
だから……今、ようやくと一緒に夢を叶えていけるのが嬉しくて溜らない!
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