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ふたりの初恋 9

 午後のミーティングは、更に盛り上がった。  想が落ち着いた品の良い口調でディスカッションに加わると、白熱した場がガラリと変わり、ふわりと優しい空気に包まれた。  想は控えめで押しが強いタイプではないのに、皆、想の意見に耳を傾けるのは何故だろう。  生まれながらの上品な雰囲気と素直そうな人柄、それに加えて真摯な態度。  想が醸し出す独特の雰囲気が、人を魅了し心を捉えていくようだった。  俺は心の中で、密かに喜んだ。  その男は……俺の初恋の人なんだ。  そして今も初恋を重ねる……俺の恋人だ。  頑張り屋の想を、周りが認めてくれるのが嬉しい。  そうか……  想の幸せは、俺の幸せに繋がっているんだな。 「いやぁ、有意義な時間でしたね。このまま1杯行きませんか」 「いいですね」 「じゃあ青山くん、店の手配を頼む」 「畏まりました!」  上司同士も意気投合したようで、急遽飲みに行くことになった。  俺は少し洒落た世界のビールを取り扱う居酒屋をチョイスした。 「青山くん、君は……せっかくだから同年代の白石くんの横に座るといいよ」 「あ、はい」  これは有り難い采配だ。  結局、俺たちが同級生だったことは言いそびれたが、仕事上馴れ合いを好まない上司なので、それでいいのかもしれない。  隣りに座ると、想がほっとした表情を見せる。  あぁ……昔から、俺だけに見せる表情だ。 「えっと……何を飲みますか」 「あ、青山くんのオススメを」 「うーん、英国のビールでオススメは?」  逆に聞き返すと、想は口角を上げてメニュー表をすっと指さした。 「この『エッセンス・エール』が……」  暫しの間の後…… 「……好きなんです」 「えっ‼」  いきなり何を言い出すのかと思ったら、ビールのことだった。(当たり前だ!)  オーダーすると、すぐに大きなジョッキに琥珀色のビールが注がれた。口に含むと麦芽やホップの香りの中に果実香があり、心地よい泡の感触と炭酸の刺激を感じた。  想が暗い照明の中で、俺だけに見せるように甘く笑う。 「じっくりと飲む人を楽しませる大人の奥深さが、エールビールの魅力ですよね」  まるで誘うような文句に、クラクラした。  待ったな。  俺の想は一回りも二回りも、いい男になって帰ってきた。 「だから、一緒に飲めて嬉しいです」 「俺もだ」  誰もがほろ酔い気分になった帰り道……  駅で解散することになったが、どうしたって名残惜しい。 「あ……もしかして白石さんも小田急なんですかぁ、私もなんです。よかったら一緒に途中まで帰りませんかぁ~」  ‼‼ お、おいっ! 抜け駆けはダメだ!  想は……俺のもんだ! 「あの、白石さん、男同士もう1軒どうですか」  俺は思わず想の腕をムギュッと掴んでしまった!  なんだか俺の方が……さっきから大人気ないよな。 「いいですね。付き合います!」  名残惜しそうな後輩女子社員を改札で見送ると、横に並んでいた想が、俺を見つめて、また微笑んでくれた。 「駿……ありがとう」

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