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ふたりの初恋 10

 ランチの後、僕はひとりでコンビニに寄りアイスコーヒーを購入した。  昔は牛乳を入れても苦く感じていたのに、いつの間にブラックで飲めるようになったのか。そういえば高校の下駄箱前に自動販売機があって、コーヒー牛乳をよく買ったな。部活帰りで汗だくの駿に差し入れしたくて。  最初のきっかけは、僕がたまたま飲んでいたコーヒー牛乳を、駿がひょいと取り上げて飲んでしまったことからだった。 …… 「へぇ~ これ甘くて美味しいな」 「そうだね。全部飲んでいいよ」 「悪いよ」 「僕はもう半分飲んだから」 「……じゃあ遠慮なく!」  久しぶりに駿と半分こ出来たのが、嬉しかった。幼い頃は公園や遠足でおやつをいつも半分こしていた。こんな些細なことが嬉しいなんて、僕にとって駿は本当に大事な存在なんだな。 ……   教えてもらった屋上の休憩スペースには、爽やかなビル風が通り抜けていた。屋上緑化を心がけているようで緑の楽園のようだ。  爽快で凜々しい駿に、よく似合っている。  駿……  心の中で名を呼べば……  仕事中だからと封印していた駿への甘い想いが溢れてきてしまう。  困ったな。  ここに駿が現れたら……僕の心臓どうなってしまうかな?  コンクリートの白い壁に身を委ね、五月の薫風に吹かれながらアイスコーヒーにそっと口づけた。 「想……!」 「駿……」  すると駿が颯爽と現れたので、咄嗟にコーヒーを差し出した。  高校時代と変わらぬ流れを掴めたことが、嬉しかった。  間接キス。  そんな言葉を意識したのは、いつからだろう。高校生までは半分こできるのが嬉しくて、ただそれだけだったのに。あの日、唐突にキスされそうになってからなのかもしれない。離れていた10年間、あの日のキスを素直に受けていたら……何かが違ったのか、何かが生まれていたのかと悶々とする日々だった。 「あ、悪い。また全部飲んじゃった」 「いいんだよ。僕はもう半分飲んでいたから」 「懐かしいな。半分こ」 「うん」  駿が明るい日差しの中、朗らかに笑っている。  これは夢にまで見た光景だ。  英国は薄曇りの日が多かった。うんざりするほどの曇天の中、心の中で駿の笑顔をいつも思い浮かべていたよ。明るく爽やかな君は、僕の太陽のような存在になっていた。 「どうした?」 「あ、いや……午後も頑張るね」 「想の評判、すごくいいよ。格好良くなったな」 「ありがとう。駿もすごく素敵だ」    もう駿の唇に直に触れた身なのに、心臓がドキドキしてしまう。    成長した僕を、こんな風に明るい眼差しで見て欲しかった。僕……もう人に埋もれることなく自分の意見を言えるようになったんだよ。駿とすれ違いたくないから、アメリカでも英国でも努力したんだ。  飲み会の後……新宿駅周辺の雑踏に迷子になりそうな僕を、駿がさり気なく引っ張ってくれた。 「想、今、何を考えている?」 「今日1日のことを」 「仕事でも一緒になれるなんて奇跡だな」 「僕はいつか仕事で一緒になれる予感がしていたよ」 「じゃあ、想の願いは叶ったんだな」 「駿の願いは?」 「もちろん叶った!」    僕たちはあてもなく歩きながら、話しを続けた。 「ところで、駿、もう一軒って、どこなの?」 「あー 悪い、咄嗟に言っただけで何も考えてなかった」 「さっきは呼び止めてくれて嬉しかった。実は……困っていたんだ」 「呼び止めて……良かったんだよな」 「当たり前だよ。もう僕は駿しか見えていない」  今すぐ駿と抱き合いたい。そんな衝動に駆られていた。  きっと駿も同じ気持ちだ。 「あーあ、俺、独身寮に入ったことが悔やまれるよ」 「そうだ……今度、僕の家に遊びに来ない?」 「えぇ! で、でも」 「あ、あのね……母がご飯をご馳走したいって」 「あ、あぁ……そっちかぁ」  あからさまにがっかりする駿の様子が、不謹慎だが可愛く見えてしまった。   「……食事が終わったら、僕の部屋でゆっくり過ごそう」 「想……っ」  僕たち、別れ際には、いつも次の約束をしよう。  初恋を重ねて行くには、お互いの歩み寄る心が大切だから。  そう思うから。     

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