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ふたりの初恋 11

 横に並んで……歩けるだけで。  そこに、想がいてくれるだけで。  また俺に微笑んでくれることが、嬉しくて嬉しくて――  離れていた10年間。  想の笑顔を探しても、無理矢理キスを迫った日の……想の驚愕した顔、焦燥した顔、悲しげな顔が浮かんでは消えて……俺を苛んだ。  だから、たったこれだけのことでも、俺たちの行く道に幸せの虹がかかっているような気分なんだ。 「駿、あの……もう終電になってしまうよ」 「ごめん、結局店にも入らず……」 「いや、駿とお喋りしながら歩くの、楽しかったよ」  相変わらず品の良いしゃべり方をする想に、また癒やされる。  サッカー部の連中は言葉も荒く男勝りで、それはそれで楽しかったが、想と過ごす時間は別格だった。  一緒にいると心が和らいだ。  想の部屋は日当たりが良く、俺たちはよくベッドを背もたれに並んで、音楽を聴いたり、語らったりした。 「……気をつけて帰れよ」 「そんなに飲んでないよ」 「そういえば、想って酒強いのか」 「どうだろう? そこそこは飲めるよ。でも実は……そこまで深酒をしたことはないんだ」  想がカタチの良い口元をキュッと上げて、俺を見つめる。  想って、想って……なんだか大人の色気が出た!? 「どうして?」 「……酔った僕を一番最初に見せたい人がいたから」  思わせぶりな想の言葉に、また心臓がバクバクする。 「う、自惚れていいのか」 「くすっ、僕はね……本当は駿と成人式を迎えたかったんだ。意気地なしで帰国できなかったこと後悔しているよ」 「想……」 「お酒を飲むのも、大人になるのも一緒に……そんなことばかり思っていたんだ」  あぁ……この可愛い男をどうしたらいい?  こんな駅のホームで抱きしめるわけにはいかないのに! 「だから、しゅーん、今度僕の家で一緒に飲もう!」 「あ、あぁ、そうだ! 早い方がいいな。今週末でもいいか」 「もちろんだよ! 駿がまた僕の家に遊びに来てくれるなんて夢のようだよ。あっ、電車が来た。駿……また必ず連絡するね!」  想が明るく笑って電車に乗り込んだ。  俺はその姿を瞬きもせずに、見つめていた。  心も身体もポカポカだ。  心が満たされるって、こういうことを言うんだな。  俺の想は、なんて魅力的になって舞い戻って来てくれたのか。  俺たちにかかった初恋の魔法は、永遠に解けない!    

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