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ふたりの初恋 13

「懐かしいな」 「想とこうやってマンションを見上げるの……10年ぶりだね」 想の家は、一軒家が並ぶ鵠沼界隈では珍しいマンションだった。  手焼きの煉瓦張りの超高級仕様で、都内在住の人のセカンドハウスにもなっているらしく、すれ違う住民は金持ちそうな人ばかり。  そういう想も、とても裕福な家に育ったお坊ちゃまなんだよなぁと……改めて俺の横に立つ、品の良い顔を眺めた。 「海外赴任中はね、賃貸で貸していたんだよ。父が手放さないでいてくれて良かった」 「そうだな、俺の家はもう姿形もないから、尚更そう思うよ」 「うん」  想の家のベランダからは、鵠沼海岸の海がよく見える。  それが羨ましくて、よく遊びに来たんだよな。  想のお父さんは海外出張が多く、まるで母子家庭のような寂しい家だと、最初に来た時に思った。大人しい想と大人しいお母さんは引っ越してきたばかりで、土地に不慣れで明らかに周囲から浮いていた。だから俺の母さんを紹介してあげて……母親同士の交流も始まったので、まるで我が家のように上がり込んだものだ。  807号室 マンションの最上階が想の家だ。  「駿? もしかして、緊張してる?」  エレベーターの中で、想に顔をじっと覗き込まれて、素直に頷いた。  カッコなんてつけなくてもいい。  想の前では、素の俺でいい。  空気のように水のように、俺たちは自然に傍にいるのだから。 「駿……僕も同じだよ。母には駿のことを話してはきたけれども……どこまで理解しているのかは、分からないんだ……ごめん」 「大丈夫。今日、いきなり驚かすようなことはしないよ。まずは、ありのままの俺を見てもらいたい」    エレベーターを出て、右に曲がる。そこから7軒目の角部屋が想の家だ。  足は自然に動き出していた。ならば、心も一緒に動かしていこう。 「お久しぶりです。おばさん」 「まぁ……本当に駿くんなの? 凜々しくカッコよくなって感激だわ」 「ご無沙汰してすみません」 「謝ることないわ。慣れない海外赴任で私もあなたのお母さんと疎遠になってしまったし。あのね……良かったらまた間を取り持ってくれないかしら?」 「喜んで。母も忘れていないと思います」 「良かった! 立ち話もなんだら上がって頂戴。洗面所は向こうよ」 「はい! まずは手を洗ってきます!」 「うふふ、駿くんのその台詞、小学校の頃と少しも変わらないわね」 「そうですか」 「そうよ」  よかった!   想のお母さんは、何も変わってない。俺をあたたかく受け入れてくれている。  小学校の頃、学校帰りに遊びに来ては、必ず最初に手を洗ったよ。  当時の俺は泥まみれで遊んでいたからな。想は、絶対に汚しちゃいけない存在だった。  手を洗っていると、想がタオルを持って近づいてきた。 「駿、これ使って」  洗面所はリビングから離れた廊下にあるので、ここでは二人きりだ。 「サンキュ!」 「んっ」  だから……もう我慢出来ずに、想の柔らかな頬にチュッと軽いキスをした。 「しゅ、駿!」 「タオルのお礼だよ」  ふわふわな無撚糸のタオルより、もっと柔らかな想の頬。  ずっと触れたかった場所に、まずは着地した! 「続きは後でな」 「う……うん」  想はもう真っ赤だ。  可愛い想……俺の想……今日も大好きだ。  

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