41 / 161

ふたりの初恋 14

《今日は想の母親視点です》 **** 「お母さん、今度の週末は家にいる?」 「いつもいるわよ」 「あの……お父さんは?」 「あの人は土日は仕事とゴルフよ」 「そうか……あ、あのね……」  仕事先の人たちと飲み会だったと頬を染めて帰宅した息子の顔を、まじまじと見つめた。  想ってば、日本に帰国してから毎日楽しそうね。  ずっと想の笑顔が見たかった私は、密かに胸を撫で下ろした。 「早速、駿くんを連れて来てくれるのね」 「え? 僕、まだ何も言ってないのに」  想は面映ゆげな表情を浮かべ、頬を一段濃く染めた。   「想の顔を見ていれば分かるわ」 「お母さん……ありがとう……駿ね、お母さんの料理をまた食べたいって」 「まぁ覚えていてくれたのね。駿くんのおかげで想もご飯を沢山食べるようになったのよね。じゃあ腕によりをかけて作るから楽しみにしていてね」    想が8歳の時、ここに引っ越してきた。  私に似て大人しく内気な息子に、都心のマンモス校は合わなかった。  しかも小学校に入り小児喘息が酷くなり、学校も休みがちで友達も出来ず、授業参観で、休み時間にそっと机から本を取り出す息子の姿を見て、切なくなったわ。  クラスで浮き出した想は、やがていじめの対象にも……  いち早く気付けて、本当に良かった。  だから……逃げるように……主人を説得してここに引っ越してきたの。  静かな海辺の町、私の大好きな海が部屋から見えるマンション住まい。  それでも転校初日は祈るような心地だったわ。  下校してきた想の顔を玄関で見て、ホッとしたのを今でも鮮明に覚えているわ。  想の後ろには、人懐っこい笑顔の少年がランドセルを背負って立っていた。 「はじめまして! あおやま しゅんです。かえりみちが分からないって言うので、送ってきました」 「まぁ……想が……ごめんなさいね」 「おばさん、どうしてあやまるの?」  駿くんは大きな黒目を見開いた。 「だって、あなたに遠回りさせて迷惑をかけちゃったでしょう?」 「全然! 俺、ソウの友だちだもん!」 「え?」 「これから毎日あそぶんだ! ここにも遊びにきてもいいですか」 「も、もちろんよ!」   いきなり垣根を跳び越えてやってきた駿くんは、少しやんちゃで、優しくて頼もしい子どもだった。  想は本当に嬉しそうに、駿くんの言葉に耳を傾けていたわ。 「な、今日からはシュンって呼べよ、ソウ」 「シュン……?」  想にとって初めてのお友達。  息子のドキドキが、私にも移ってしまったみたい。  想、想……本当に良かったわね。  **** 「おばさん、手を洗ってきますね」 「どうぞ」 「ありがとうございます!」  昔のように礼儀正しく家に上がる前に、手洗いに行く後ろ姿に、妙にドキドキ!  息子も27歳なら、想くんも27歳。  いい青年になったわね。  広くて逞しい背中になったわね。  どうぞ、どうか、また想のことよろしくね。 「あ、まだ洗面所のタオルを取り替えていなかったわ。想、これを駿くんに持っていってあげなさい」 「え……でも」 「ほら、いってらっしゃい」  トンっと息子の背中を押すことに、後悔はないわ。    この恋を応援すると覚悟を決めたのは、私よ。  

ともだちにシェアしよう!