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ふたりの初恋 15

 いつも用意周到なお母さんが、来客用タオルを用意し忘れるなんて珍しいな。  それにしても……今日のお母さん、とても楽しそう。  ご機嫌な様子で……トンっと背中を押し、僕を廊下に出してくれた。 「……お母さん?」 「想、ほらほら、早くしないと駿くんが困ってしまうわよ」 「あっ、うん!」  洗面所を覗くと、駿がいた。  この洗面所に駿が立つのも10年ぶりだね。  最初にこの家に来たのは、僕の転校初日だった。  僕は前の学校で、居場所がなかったので……本当に緊張していた。  あの頃は小児喘息が酷くて体育も休みがち、学校も休みがち。気弱で内気な僕は都会のマンモス校で居場所を失って、孤独で寂しい世界にいた。  孤立なだけならまだ良かったのに……  いろいろ体調面から優遇されることが増え始めると、クラスメイトから冷たい目で見られるようになった。そしてついには「さぼり屋」と陰口をたたかれたり、「バイ菌」とか「幽霊」と揶揄されて、爪弾きに遭うようになった。 ……  またそんなことになったら、どうしよう。怖いよ。 「しらいし……そう……です、よ、よろしく……おねがいします」  あっ……声がふるえて、たどたどしくなってしまった。  絶対に笑われる……またいじめられる。  目をギュッと閉じると、明るい声が聞こえた。 「せんせー 俺の席、となりあいてるよ」 「おぉ、じゃあ青山の隣な」 「は、はい」 「こっち、こっち」  とても活発そうな明るい男の子は、ニコニコ笑って手招きしてくれていた。 「う……うん」 「俺はあおやま しゅん! 友だちになろうよ!」 「え……僕なんかと……いいの?」 「もちろんだよ! 俺がそうしたいんだ。よろしく!」 「う……うん、よろしくね」  手を真っ直ぐ差し出され、握手した。  バイ菌とか幽霊と言われていた僕に、触れてくれた。    それが嬉しくて嬉しくて……泣いてしまいそうだった。 ……  パシャッ――  水音に、我に返った。  手を洗っていた駿に背後から近づいて、タオルを差し出した。 「駿、これ使って」 「サンキュ!」  次の瞬間、駿の顔を近づいてきたので瞬きもせず見つめていると、チュッとリップ音がした。 「え!」  駿の温もりを頬に感じ、思わず手で押さえてしまった。 「ええっと、タオルのお礼だよ。そんな可愛い顔、すんなよ」  駿の顔は、真っ赤になっていた。 「うわっ! 顔が火照ってきた! まずい!」  駿がそのまま顔をパシャパシャと洗い出してしまったのには、驚いた。  それを言うのなら、不意打ちのキスをされた僕だって……きっと火照っているよ。  駿……駿、ありがとう……いつも僕に触れてくれて。  あの日、躊躇いもせず触れてくれたのが、駿……君だった。   水滴を纏った凜々しい駿を見つめて、僕は微笑んだ。 「駿、今日も大好きだ」 「想、俺も大好きだ」  二人で仲良くリビングに入ると、母に笑われた。 「洗面所、暑かった?」 「え?」 「くすっ、だって……二人とも顔が赤いんだもの」 「お……お母さんってば」  僕と駿が顔を見合わせると、確かに二人ともうっすら頬を染めていた。    

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