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ふたりの初恋 18
「さぁ出来たわよ!」
「あっ、お母さん、僕が持つよ」
「まぁ、ありがとう」
お母さんが大皿を持って出てくると、想がサッと立って手伝いに入った。
おいおい、さっきは酔った感じでトロンとしていたのに……でも、咄嗟にサッと動けるのって、スマートでいいな。
それでこそ、俺の想だ。
最近心の中でつい『俺の想』と言ってしまう自分に、照れてしまう。でも俺たち付き合っているんだから、この位の独占欲はいいよな?
この家に初めてお邪魔した時、想がお母さんの手伝いを沢山するのに驚いた。
いや、想ならすると思ったというのが、正解か。
想と小中高と一緒に過ごすようになり、気付いたことがあった。
身なりが良く上品な雰囲気を醸し出す想は、裕福な家庭で大切に育てられたことが一目瞭然だった。
だが、それをひけらかすことのない思慮深さ。とても優しい瞳を持つ棘がない人間なんだと、知れば知る程強く思った。
だが棘がない分、とてもデリケートで傷つきやすい内面を持っていることも知っていた。
「駿も酔っ払った?」
「いや、大丈夫。これって、もしかしてフィッシュアンドチップスか」
「うん、僕が就職で赴任した英国で教えてもらった味なんだ」
「そうか、想はアメリカから英国というコースだったんだな」
揚げたてのフィッシュアンドチップスを頬張ると、白身が柔らかで衣がサクサクしていて風味が良かった。調子に乗ってビールをゴクゴクと飲み干すと、想がグラスの向こうで笑っていた。
「ん?」
「駿らしいね、豪快に食べて飲んでくれるの、見ていて気持ちいいよ」
「そうよね。駿くんの食欲が衰えてなくて良かったわ」
おばさんと想が意気投合して、うんうんと頷いている。
相変わらず……仲良し親子は健在なんだ。
良かった。
「これね、僕が英国で特に好んで食べていたものだよ。だから駿にも食べてもらいたくて作ってもらったんだ」
「ありがとう」
もう気付いていた。次々に出されるメニューが、俺たちの過去、そして俺の知らない想の過去に触れていることを。
「英国……長かったのか」
「うん、日本に戻りたくて日本の会社に就職したのに、いきなり英国で驚いたよ。ちょうど人が足りなかったみたいで、日本で新人研修を受ける間もなくで、残念だったよ」
「そうだったのか。その間は一人暮らしを?」
「いや、両親の知り合いの英国貴族のご家庭に、居候させてもらったんだ」
英国貴族‼ 流石だな。
「実はね……この子、一人暮らしなんてしたことなかったから心配で、主人の知り合いの安全なご家庭に預けたの。いい歳をした息子に過保護過ぎるわよね」
おばさんは少し恥ずかしそうにしていたが、俺は感謝した。
想が安全な場所にいてくれて良かった。想みたいな優しげな面立ちの日本
人は狙われそうで、危険だ!
「そんなことないよ、お母さん。とても素敵なご家庭だったよ。駿……本当にとても素敵な場所だったんだ。奥さまは日本人でハーフの小さな女の子がいて、僕は数年間、そこで、お兄ちゃん代わりをしていたんだよ」
知らなかった想の過去が、次々と明かされていく。
それはやましいものではなく、明るい過去だった。
そうか……そんな経験を積んだから、今の想があるのか。
その話をもっともっと聞きたいが、酔っ払った想も見たい。
とにかく……もっと想に触れたい。
「想、もっと飲めよ」
「うん」
「あら、駿くんも飲んで」
「あ、はい」
俺、想のお母さんからのお願いは拒めないぞ。で、勧められるがままに飲んでいたら、クラクラした来た。
「駿、大丈夫?」
「……ちょっと眠い」
「まぁ大変! 少し横になるといいわよ」
「え? それは悪いです」
「いいからいいから。想、あなたのお部屋で休んでもらったら」
「あ、そうだよね。駿……立てる?」
おーい、なんだか当初の予定と違うが、これはこれでいいのか。
道は違ってもゴールは一緒ってことか。
そうだな!
どんなルートでもいい。
想と離れないでいられるのなら……
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