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ふたりの初恋 20
想をベッドに寝かすと、小学生の頃、よくこうやって見守ったのを思い出した。
野球もサッカーも大好きな健康優良児だった俺は、休み時間になると、いつも校庭を走り回っていた。それは想が転校して来る前も、後も変わらなかった。元々じっとしていられない性分だったからな。
それでも、想が来てから変わったことがある。
校舎を見上げることが増えた。
想はいつも校舎の窓から校庭を眺め、目があえば手を振ってくれた。
真っ白な校舎にクリーム色のカーテンが風にはためいていて、その中に想がいると、なんともいえない優しい雰囲気で、見蕩れてしまった。
なんだろう? この気持ち……想がいると、毎日幸せだな。
小さな芽生えは、今、こんなにも大きな愛へと成長した。
「想、眠いんだろ……少し眠っていいよ」
「でも……駿……ごめん。まだいてくれる?」
「あぁ、いつものように目覚めるまではいるよ」
「よかった」
想が目を閉じると同時に、また過去を思い出す。
想が学校を休むと、全てを投げ出してでも想のお見舞いに行きたくなった。
俺はそれを実行した。
寂しげで俺がいなくちゃ周囲に溶け込めない想を、ひとりぼっちにはさせたくなくて。
小児喘息の辛さも大変さも、その時初めて知った。
薬である程度コントロール出来るはずなのに、想は体調を崩すことが多かった。
ゼーゼーと肩で息をして、息苦しさに顔を歪める様子を見ていると、代わってやりたいと、切に願った。
過去を振り返っていると、想が深い眠りに落ちたようで安定した寝息が聞こえてきた。
酒に酔って眠るなんて、10年前には考えられなかった。
「そうか……すっかり体調もよくなり、健康になったんだな。良かったな」
それは分かっているのに、つい心配してしまう。
酒に酔った頬はうっすら赤く、首のあたりも火照っていた。
淡い色の唇をじっと見つめてドキドキした。
さっき……想の中に、初めて入れてもらった。
舌先で唇の中へ侵入させてもらった。
想の口腔内は熱を持っていて、吸い込まれそうだった。
それだけでも最高にドキドキしたよ。
「じっくり……ゆっくり……丁寧に……大切にだ」
もう一度呪文を唱える。
想と恋の歩調を、確認した。
想が完全に眠ったのを確認してから、そっと想の髪を掻き分け……綺麗な額にキスを一つ落とした。このままここにいるか迷ったが、俺は小学生の時と同じようにリビングに向かった。
「おばさん、想、寝ちゃいました」
ダイニングテーブルで本を読んでいたおばさんに伝えると、昔と変わらない笑顔で手招いてくれた。
「まぁ……あの子ってば、酔って眠るなんて滅多にないのに、駿くんが遊びに来てくれてよほど嬉しかったのね。心からリラックスしていたのね。駿くん、本当にありがとう」
もう黙ってなんていられない。
この想いは、おばさんには伝えておきたい。
「おばさん……俺、想のことが好きなんです。すみません」
「まぁ駿くん、どうして謝るの?」
「……母親なら……普通に女の子と付き合って欲しかったんじゃないですか」
「そうねぇ……駿くんじゃなかったら戸惑ったかもしれないわ。アメリカで想から告白された時……」
想の言った通り、おばさんは俺たちの仲を理解してくれているようだ。
「想はね、少し変わったでしょう? アメリカで暮らすうちに、どんどん前向きになっていったのよ」
「どうしてですか」
「そうね、向こうの高校、大学で、いろんな人と接するうちに、自信を持てたのかもしれないわ。駿くんが好きな気持ち、最初はどうしていいのか分からなくて、悩んでいたわ。駿くんと離れていた10年で、想も私も心を整えられたのよ。だから謝らないで」
おばさん、母親なら思うことが沢山あるだろうに。
全てを許して認めてくれるなんて。
「おばさん、ありがとうございます。想と一緒に歩ませてくれて……」
あとがき(不要な方は飛ばして下さい)
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ゆっくりな進展ですが、ここまで付いてきて下さってありがとうございます。駿と想の甘くて優しい初恋模様を気に入って下さる方に、楽しんでいただけたら幸いです。
『今も初恋、この先も初恋』では、目の前にいてくれる人を、心から大切にするお話を書きたいと思いました。つい希薄になりがちな人間関係を丁寧に見つめ直したいなとも……なので駿の台詞「じっくり……ゆっくり……丁寧に……大切にだ」が、このお話の鍵です。
二人の恋の進展(肉体的)も必然的にゆっくりになりますが、どうか見守ってください💓
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