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ふたりの初恋 21
転校初日。
休み時間になるとすぐに、隣の席の子は教室を飛び出してしまった。
「しゅん、俺もいくー」
「僕もー! 待ってー」
あっという間に教室は、もぬけの殻だ。
あぁやっぱり……僕はまたひとりなんだ。
新しい学校でも、また同じ日が続くのかな?
お母さんに心配をかけてしまうのに。
子供心に、そんなことを思っていた。
でもね、それは全部……杞憂に終わったんだ。
「そうー!!」
ランドセルから本を取り出していつものように読もうとした時、校庭から僕を呼ぶ声がした。
「えっ?」
そっとカーテンを開けて見下ろすと、
隣の席の男の子が、満面の笑みで手を振ってくれていた。
えっと……青山駿くんだったよね?
どうして……?
びっくりした。こんなに大きな声で呼ばれたのは、初めてだ。
「おーい、そこから俺のこと見てて」
「え?」
「サッカーするから、ずっと見てて!」
見てもいいの?
見ていてもいいの?
前の学校では……目が合うだけで嫌な顔されたんだよ。
「……う、うん! 見てる!」
それから僕は休み時間の度に窓辺に立った。
外気を浴びるのは、僕の身体にも良かったようだ。
夏には太陽が燦々と降り注ぐことを知り、秋には風が一気に涼しくなることを知った。
冬の北風に白い息を吐き、春風には優しく包れたくなった。
少しずつ少しずつ、季節が巡る度に、僕は健康になっていった。
もっと元気になって、駿の横を並んで歩きたいと思った。
僕らは対照的な二人だったが、とても気が合った。
互いに、自分にはない何かを、相手の中に見つけていたから。
……
「駿……?」
ふっと目覚めたので、思い切って駿を呼んでみた。
アメリカでも英国でも、こんな風に呼んだことはなかったのに。
今は呼んでもいい気がした。
「想、起きたのか。どうだ? 酔い、醒めたのか」
「うん、少し眠ったらスッキリしたよ」
「よかった。おばさんがデザートだって。さぁ行こう!」
駿が手を差し出してくれたので、僕はその手をしっかり握った。
「……お母さん、ごめんなさい」
「もう大丈夫なの?」
「うん」
「この子ってば、駿くんがいるからって甘えて」
「お、お母さん、それは言わないで」
それは図星だから。
駿が傍にいてくれ、あの日離れてしまった手を握ってくれる。
それだけでも、舞い上がりそうな程、僕は嬉しいんだ。
「お母さん、今日のデザートは何?」
「ふふっ、これよ」
お母さんが出してくれたのは、北鎌倉の月下庵茶屋というお店の有名な最中だった。
「あれ? いきなりデザートだけ和風なの? 好物だけど……」
「そうよ。巡り巡って……二人とも……お帰りなさい!」
そうだ。
僕たちの全ての始まりは、ここからだった。
この場所から、また始めていいなんて……
お母さんの応援が、心強いよ!
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