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ふたりの初恋 22

 最中は上品な甘さで、懐かしいふるさとの味だった。 「……やっぱり日本はいいね」  自然と漏れる言葉を、駿が拾ってくれる。   「あぁ、そうだろう」 「この最中って……僕たちがあの日、行ったお店のだよね」 「あぁ、また想と行きたいよ」 「……僕たちが最後に行ったのは」    二人で同時に、あの日のことを思い出した。  あの寒い雪の日を。  一緒に歩いた帰り道、凍てついた空から雪が突然ひらひらと舞い降りてきた。  繊細な粉雪だった。  駿が手の平で受け止めた雪を見せてくれた。  でも僕が触れるとすっと解けてしまう。  僕が寂しそうに見えたのか……駿は同じ動作を繰り返してくれた。  あの日の駿の手はとても温かくて、ふいに小さい頃はよく仲良く繋いでいたのを思い出し懐かしくなった。  手を離すのが名残惜しくて、僕は何度も手を伸ばしてしまった。  あの日の僕は……駿に、ただ……触れたくて―― …… 「想の手、冷たいな。なぁ俺、腹ぺこ! 久しぶりに寄り道しないか」 「いいね」 「あ……今日は真っ直ぐ帰らなくていいのか」 「うん、お母さんは東京までミュージカルを観に行っているから……帰っても誰もいないんだ」  すると、駿が一瞬顔を赤らめた。   「そ、そうか。相変わらず想の家は次元が違うな」 「そんな……そうだ。誰もいないけど、僕の家に来る?」  駿は何故か顔を真っ赤にして、頭をブンブン振った。 「どうしたの?」 「いや……今日は行ってみたい店があるんだ。北鎌倉まで足を伸ばしてもいいか」 「うん! 駿の行きたい場所に行こう」 「寒くないか」 「大丈夫。雪の日に外を歩くのは楽しいよ」 「想はさ、風邪を引きやすいんだから、マフラーをしっかり巻いていろよ」  駿が立ち止まって、僕のマフラーを巻き直してくれた。 「しっかりだ」 「ありがとう」  鎌倉まで江ノ電に乗って、その後は歩いた。  途中、指先が冷たくなったので、気付かれないようにそっと息を吹きかけると、駿が眉をひそめた。 「想、手袋は?」 「してこなかったんだ……こんなに寒くなるなんて思わなくて」 「馬鹿だな」  唐突に駿が僕と手を繋いでくれた。 「あ、あの」 「昔みたいだな」  僕の惑いを、一気に吹き飛ばしてくれる駿の笑顔。 「うん!」  二人で歩いた白い道。  その後食べたお汁粉の美味しかったこと。  お土産として買った最中。  帰り道、ふいに駿が立ち止まったので不思議に思って見上げると、今度は困った顔をしていた。 「どうしたの?」 「……想、唇の端っこに、あんこがついている」 「え? どこ?」  恥ずかしくて慌てて手で唇を擦ると、駿がそっと僕の唇を指でなぞった。  とても慎重に、とても丁寧に。  駿の指先の温もりが想像以上に心地良くて……  自分でも……そんな風に考えたことがなかったので、驚いてしまった。  僕……最近少し変だ。 「か、帰るぞ」 「うん」  帰り道はもう……手は繋がなかった。  でも僕の心はずっとドキドキしたままだった。 …… 「想、また行こう」  駿がさり気なく机の下で手を握ってくれたので、あの日のように心臓が跳ねた。 「お母さんにお土産を買ってくるよ。今度は僕たちが」 「楽しみにしているわ。二人でデートしていらっしゃいよ」 「お、お母さんってば……」  耳朶が染まって行く。    小さい頃から病気がちで心配ばかりかけた僕を、こんなにも広い心で見守ってくれる母の存在にただ、ただ……感謝した。 「……ありがとう。本当にありがとう……お母さん」  本当に駿との関係を認めてもらえるのか、少しの不安も溶かしてくれるお母さんの慈悲深い顔に、じわりと涙が溢れてしまうよ。  ここから始まり、ここから育てていく。  それが僕らの初恋だ。  駿とギュッと繋いだ手……  ここは、ふたりの初恋の息吹に触れる場所だ。                        「ふたりの初恋」 了

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