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歩み出す初恋 2

『横浜市 新緑区 しろつめ草三丁目』    こんなに可愛らしい住所が、同じ神奈川県内にあるなんて知らなかった。  駿から教えてもらったご実家の住所に、少し驚いてしまった。  まるで住所だけ見たら、童話の世界のようだ。  それにしても早速、次の週末に遊びに行けるなんて――  駿はいつだって自分が口にしたことは実行し、実現させていく。 今回もそうだ。  あっという間に、僕と母が駿の実家に行く機会を作ってくれたんだね。 「お母さん、準備出来た?」 「待って……私……緊張しちゃって」 「大丈夫だよ」 「でも不義理をしてしまったのに、私まで本当に行っていいのかしら?」  どうやら、まだ心の準備が調わないようだった。  お母さんは僕に輪をかけて内気な人だ。せっかく駿のお母さんと仲良くなれたのに、渡米してから連絡を途絶えさせてしまったのを後悔し、恥じているようだった。  でもね、それは……お母さんのせいじゃないよ。  お母さんが慣れない海外生活に必死に溶け込もうと頑張っている時に、僕が不安定だったからなんだ。  渡米して最初の1年は、小児喘息は克服したと思っていたのに、慣れない水と空気に喉を痛めて寝込むことが多かった。駿のことで意気消沈し、心も身体も弱っていたようだ。  思えば……変わりたいと思っているのに、変われない心と身体を持て余した時期だった。  結局僕は1年かけて、まずはメンタルを鍛えた。同時に体力を付け、自分から勇気を出して輪に溶け込む努力もした。  自分の意見を持つことの大切さも、海外生活で嫌というほど学んだ。  僕がどうしてそんなに頑張れたか……  それはね、駿に再び会うためだよ。  もっと強い心を持って、丈夫な身体になって、胸を張って……駿と肩を並べたいと切に願ったから。 「お母さん、乗って」 「まぁ……綺麗な車ね。想が運転してくれるなんて不思議ね」 「そうかな? 僕はこうやってお母さんを乗せてドライブするのが夢だったよ」 「ありがとう。息子に誘ってもらえて嬉しいわ」  日本に帰国してすぐに購入した青い車は、先週納車されたばかりだ。  ずっと夢だったんだ。  空の青、海の青、 駿の青――  青い車に乗ることが。  母が車に乗った時、ふと誰かの優しい想いとぶつかった。  こんな風にお母さんとドライブをしたかった人がいるのかな? 「……なんだろう?」 「どうしたの?」 「あ……うん、お母さんとデート出来るのが嬉しくて、なんだかじーんとしたんだ」 「まぁ、この子ってば嬉しいことを言ってくれるのね。ありがとう。母親なら誰もが抱く夢じゃないかしら?」 「そうだね」  高速を下り一般道を走ると、小川が流れ、木漏れ日が溢れ、まるで軽井沢の避暑地のような景色が続いた。  やがて、駿の家に到着した。  都心の三階建てとは違うログハウスのような雰囲気の広々とした二階建て。この辺りには、似たような家が多い。  少し不便な土地なので、今日はお互いに現地集合にした。  家の前には真新しい白い車が先に停まっていて、駿が立っていた。   眩しいまでの白、空の雲のような白!   駿の車は白なんだ。  駿がよく僕のイメージカラーを白と言ってくれたのを思いだし、照れ臭くなった。 「想、よく来たな! おばさん、こんにちは!」 「駿くん、今日はお招きありがとう」 「俺の母も会いたがっていました」 「ありがとう。お世話になります」  母との挨拶の後、駿は僕を見るなり、明るく笑った。 「想はやっぱりスーツを着てきたな」 「あ……変だった? これしか思いつかなくて」 「いや、想らしくていいよ」  駿が人懐っこい笑顔を浮かべて近づいて来て、そのままグイッと僕の肩に手を回して引き寄せてくれた。 「駿……?」 「栄養補給だよ」 「あ……うん」  耳元で小声で囁かれると、耳朶が染まった。  僕も……僕だって同じだよ。  一週間ぶりに感じる駿のぬくもりに、心がトクンと跳ねた!  すごく……すごく会いたかったよ、駿――

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