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歩み出す初恋 3

「由美子ちゃん、会えて嬉しいわ!」 「私もよ……アメリカに行ってから連絡出来なくて……」 「大変だったんでしょう。あなたは、あれこれ一度に出来ないのを知っているから大丈夫よ」 「うっ……ごめんなさい」 「やだ、泣かないで」    久しぶりの再会を手放しで喜ぶ母親たちの様子に、安堵した。 「想、おばさん、泣いているな」 「お母さんは、僕と違って涙脆いんだよ」   そういう想の目元も赤く潤んでいた。    母親たちの様子を、俺たちはソファに並んで見守った。  人と人の縁って不思議だよな。  会わないうちに消えてしまう縁もあれば、会った瞬間に蘇る縁もある。  想と俺との縁は、もちろん後者だ。  そして俺の母とおばさんとの縁も、後者だった。  良かった。  本当に良かった。  さり気なく想の手に手を重ねようとした瞬間……  背後から黄色い歓声が響いた。  「きゃー! キャー! 本当に想お兄ちゃんだ!」 「みきちゃん?」 「そうよ。想お兄ちゃん~ やだー 綺麗になって~」 「くすっ、その台詞はそっくり返すよ。みきちゃん、美人さんになったね」 「え! や、やだぁ~ 照れる!」  想がそんな社交的なことを言うなんて……  呆気にとられていると、狂喜乱舞した妹がバンバンと俺の背中をど突く。  イテテっ! 「おいおい、行動が美人じゃねーぞ」 「もうっ、お兄ちゃんは五月蠅い!」  妹は三歳下なので、もう24歳のはずだが、相変わらず騒がしい。 「あーあ、私、想お兄ちゃんみたいな優しいお兄ちゃんが欲しかったなぁ。お兄ちゃんだーい好き!」  妹がさり気なく想に抱きついた。  ちょっと待て、待て。  お前はもう小さな子供では、ないんだぞ。  想も頬を染めて照れ臭そうだ  お、おい! そんな表情をするな。それは俺だけの特権だぞ。 「み、みきちゃん……」 「あ、ごめんなさい。興奮して。お兄ちゃんね、想お兄ちゃんがいなくなってから大変だったんだよ~ 失恋したみたいに毎日覇気がなくなって、しょぼーんってして」  ったく余計なことばかり……まぁ図星ではあるが。 「想、俺の部屋に行こうぜ。って、あーそっか、ここにはそんな部屋はないんだ」 「……僕、少し散歩をしたいな。この辺りは空気が良さそうだし」 「案内するよ」    とにかく、どこでもいいから、一刻も早く二人になりたかった。  この一週間、想の会社との仕事はオンラインミーティングだけだった。しかも想とは微妙に担当がずれているので、顔すら見えなかった。  残業尽くしの一週間だったから、今日は甘いご褒美が欲しい。  想はどうだ? 欲しくないか。 「駿の家、ずいぶんと思い切った引っ越しをしたんだね」 「あぁ、全部母さんの趣味。海の傍は飽きたから今度は森の中に住みたいんだと」 「そうなんだ。僕は波の音も好きだけど、小鳥のさえずりもいいね」  想がいれば、俺はどこでもいい。 「この辺りは新興住宅地で、まだまだ土地も自然も余っているのさ。それに、人が少なくていいだろう」  小径には誰もいない。  四方八方誰もいない。  しかも……この先は小川になっている。 「小川のせせらぎ?」 「あぁ、そこに行こう」  さり気なく手を繋げば、キュッと想も握り返してくれる。  それが合図のように、小川の木陰に想を連れ込んだ。  綺麗な木の幹に想をもたれさすと、想が真っ直ぐに俺を見つめてくれる。 「想……欲しかった」 「ん……僕もだよ」  言葉は飾る必要はない。想も同じだと思ったから。 「想……」 「駿……」  想が長い睫毛を伏せるのを合図に、俺はそっと唇を重ねた。  さっきまで飲んでいたアールグレイの紅茶の香りが仄かに漂う、上品なキスだった。 「あ……」  唇だけでなく、赤く染まる耳朶もペロッと舐めてやると、想が腕の中で小さく震えた。 「ここ、感じるのか」 「……そう、みたい」 「こっちは?」  想の顎を反らし、喉仏のあたりをチュッと吸い上げてみた。 「んっ」  俺の口づけで、明らかに想が感じ出たのが伝わって、嬉しくなった。   「キスって……」 「ん?」 「駿とするキスって、どうしてこんなに気持ちがいいんだろうね」 「……想、無自覚に誘うな」 「えっ、そんなつもりじゃ……素直な気持ちだよ……駿、僕からもしていい?」  想が少し背伸びして、唇を重ねてくれた。  ゆっくり……そっと……丁寧に舌先で俺の唇を確かめるように触れていく様子が可愛いかった。 「来いよ」 「いいの?」 「あぁ」  少し唇を開いてやると、想の舌が躊躇いがちに俺の口腔内に入ってきた。  その可愛い舌先を吸い上げてやると、想の腰が震えた。 「ん……っ」     俺だけが求めているのではなく、想からも求めてくれる。  それが嬉しい。  俺も……想にとって大切な人になっていく。  

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