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歩み出す初恋 6

僕たちは木漏れ日の中で、互いの想いが溢れる程のキスをし続けた。 ずっと駿が僕の腰を手で支えてくれるのが、少し照れ臭くもあり、心強くもあった。 「もう、止まらないな」 「……僕も……」  あの日……あんなに駿とのキスを怖がった僕は、もういない。  駿の求めに応じてキスを柔らかく受け止めることが、こんなに気持ちがいいことだなんて。  目を閉じて木漏れ日を感じると、駿がふっと笑った。 「想、今、とても安心した顔をしているな」 「そうかな?」 「あぁ、いつも俺の傍に来るとした顔だ」  駿が僕の頬を両手で包んで、じっと見つめている。  そうだよ。昔から……いつも駿の傍は、ほっと息が出来る場所だったんだ。   「駿……いつも駿とは海の匂いのする場所でキスをしていたけど、森の匂いもいいね」 「余裕だな、想……」  更にキスが深まっていく。  もう立っていられない程に……  その時、遠くに子供の声がして、僕たちは慌てて身体を離した。 「そ、そろそろ帰らないとな」 「うん……お母さんたちが待っているしね」  僕たちはお互いに濡れた唇を指先で拭った。 「キスって、気持ちいいんだね。僕……好きだな」 「想~ だから、もう煽るな」  駿が困った顔で、その場にしゃがみこんでしまった。 「あっ、どうしたの?」 「……少しの間、放っておいてくれ」 「え? 具合でも悪いの?」  まるでサッカーの試合で負けた時のように膝を立てて、項垂れる駿。 「……悪くないが、ちょっと辛い」 「あ……それを言ったら……僕も同じ……」 「男同士だと、こういう時、分かり合えていいな」 「うん、僕もそう思うよ」  僕は、今まで男同士という事実に、マイナス面ばかり考えてしまっていたけれども、今日からは違う。  駿がお母さんに、僕とのことを話してくれた事実に、大いに勇気づけられたのかもしれない。 「だがな、今日はグッとお互い我慢だ」 「くすっ、うん、えっと深呼吸でもする?」 「無になる」 「出来るかな?」 「自信ないな」  原っぱに腰を下ろして、僕たちは日溜まりのように笑った。  そして暫く川のせせらぎに耳を澄ましてから、二人のお母さんが待つ木の温もりのある家に戻ることにした。  帰り道、自然と僕らは手を繋いでいた。  幼い頃はいつもこうやって歩いたよね。  家の前でお母さんたちは敷物を敷いてピクニックをしていた。  そして僕たちを見つけると、笑顔で手を振ってくれた。 「駿、遅かったわね!」 「想、楽しかった?」  幼い頃、こんな光景を見た。  僕が大好きな二人の笑顔が……今も消えずに輝いていることが、心から嬉しかった。    

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