55 / 161
歩み出す初恋 6
僕たちは木漏れ日の中で、互いの想いが溢れる程のキスをし続けた。
ずっと駿が僕の腰を手で支えてくれるのが、少し照れ臭くもあり、心強くもあった。
「もう、止まらないな」
「……僕も……」
あの日……あんなに駿とのキスを怖がった僕は、もういない。
駿の求めに応じてキスを柔らかく受け止めることが、こんなに気持ちがいいことだなんて。
目を閉じて木漏れ日を感じると、駿がふっと笑った。
「想、今、とても安心した顔をしているな」
「そうかな?」
「あぁ、いつも俺の傍に来るとした顔だ」
駿が僕の頬を両手で包んで、じっと見つめている。
そうだよ。昔から……いつも駿の傍は、ほっと息が出来る場所だったんだ。
「駿……いつも駿とは海の匂いのする場所でキスをしていたけど、森の匂いもいいね」
「余裕だな、想……」
更にキスが深まっていく。
もう立っていられない程に……
その時、遠くに子供の声がして、僕たちは慌てて身体を離した。
「そ、そろそろ帰らないとな」
「うん……お母さんたちが待っているしね」
僕たちはお互いに濡れた唇を指先で拭った。
「キスって、気持ちいいんだね。僕……好きだな」
「想~ だから、もう煽るな」
駿が困った顔で、その場にしゃがみこんでしまった。
「あっ、どうしたの?」
「……少しの間、放っておいてくれ」
「え? 具合でも悪いの?」
まるでサッカーの試合で負けた時のように膝を立てて、項垂れる駿。
「……悪くないが、ちょっと辛い」
「あ……それを言ったら……僕も同じ……」
「男同士だと、こういう時、分かり合えていいな」
「うん、僕もそう思うよ」
僕は、今まで男同士という事実に、マイナス面ばかり考えてしまっていたけれども、今日からは違う。
駿がお母さんに、僕とのことを話してくれた事実に、大いに勇気づけられたのかもしれない。
「だがな、今日はグッとお互い我慢だ」
「くすっ、うん、えっと深呼吸でもする?」
「無になる」
「出来るかな?」
「自信ないな」
原っぱに腰を下ろして、僕たちは日溜まりのように笑った。
そして暫く川のせせらぎに耳を澄ましてから、二人のお母さんが待つ木の温もりのある家に戻ることにした。
帰り道、自然と僕らは手を繋いでいた。
幼い頃はいつもこうやって歩いたよね。
家の前でお母さんたちは敷物を敷いてピクニックをしていた。
そして僕たちを見つけると、笑顔で手を振ってくれた。
「駿、遅かったわね!」
「想、楽しかった?」
幼い頃、こんな光景を見た。
僕が大好きな二人の笑顔が……今も消えずに輝いていることが、心から嬉しかった。
ともだちにシェアしよう!