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歩み出す初恋 7

「想くん、楽しかった?」 「はい……気持ち良かったです」  駿のお母さんに問われて、まだ夢心地の僕は、何も考えずに素直な感想を述べていた。  僕の台詞に焦ったのは、駿の方。 「あ、だから、小川のせせらぎとか鳥のさえずりとか……つまり、自然が気持ち良かったってことだから! なっ、想!」 「もう~ 一体、駿は何を慌てているのよ。変な子ねぇ」  駿のお母さんはポカンとした表情で快活に笑ったが、僕の母は頬を染めていた。そこで僕は自分の台詞を思い返して、動揺した。  駿とのキスが気持ち良かったから、つい! 「あ……はい、そうです。何もかも気持ちが良くて、こんなに素晴らしい土地にお引っ越しされていたとは知らなかったので、感動しました」  おばさんが、僕を昔みたいにガバッと抱きしめてくれた。  いつも駿の後ろに隠れてしまう幼い僕をこうやって、大きな翼で歓迎してくれたんだ。 「想くん、いらっしゃい。そして……改めてお帰りなさい!」  あぁ……僕の母が言ってくれた言葉を、僕ももらえた。 「ただいま……おばさん……そして、ありがとうございます」 「不束な息子ですけど、どうぞよろしくね!」 「えっ!」  いきなりそんな風に言われて、流石に動揺した。   「あら、ちょっと早かった? でもね二人とも、よく聞いて。私達、母親ってそういうものなのよ。お腹の中にいた時からずっとあなたたちを見守ってきたの。泣いたり笑ったりする顔を、全部見てきたのよ。だからね……まだ見ぬ孫の顔よりも二人の笑顔が大切なの。あなたたちが一緒にいれば、沢山、笑顔を見せてくれるのでしょう?」  想が僕の手を強く握る。 「あぁ、そうだ。母さん、ありがとうな。俺たちのこと受け入れてくれて。あぁ、沢山見せるよ。俺は想といるだけで幸せになれるんだ」 「駿ってば……でも本当に良かったわね、想くんにまた会えて……今度は笑顔で会えて。10年待った甲斐があったわね」  僕の知らない駿の10年。  それはまたいつかの日か、駿が話したくなったらでいい。  僕にとって大切なのは、離れていた10年よりも、今この時だから。  再会してからの日々を、大切に丁寧にしたいんだ。  駿が僕の母に言ってくれたことを、僕もしよう! 「おばさん、僕は駿が好きです。ずっと前から好きでした。今もこの先も……ずっと!」 「まぁ……想くんってば……ありがとう。なんだか照れるけど、おばさん、嬉しいな。私の大切な息子のこと、そんなに好きになってくれて。想くん、あなた……優しさはそのままだけど男らしくなったわね」 「あ……ありがとうございます」  ずっと探していた僕と出会えたような気分だ。  帰り際に、駿の妹のみきちゃんが走ってきた。  みきちゃんは、ひとりっ子の僕に懐いてくれた妹のような存在だった。 「想お兄ちゃんー もう帰っちゃうの? また来てね」 「うん、また来るよ」 「あぁ本当に……私のお兄ちゃんだったらいいのに」  これは……どう答えたらいいのかな?  昔の僕だったら、大きな回り道をしただろう。   「……そうなろうと思っている」 「えっ?」 「また今度ね」  みきちゃんは一瞬目を見開いたが、ニコッと笑ってくれた。 「うん! 私は何があっても想お兄ちゃんの味方だからね!」  あぁ、とても心地良いエールだ。  世の中、こんなに上手くはいかないのは知っている。  それなのに歩む道がこんなにも穏やかなのは、きっと僕らが10年かけて耕した道だからなんだね。 「みきちゃん、ありがとう。おばさん、ありがとうございます」  僕は深々とお辞儀をした。  誠意はいつも胸に。     

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