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もっと、傍に 3

お互いに見つめ合って、真っ赤になった。  僕たち、意識し過ぎだ。  駿……男同士で付き合うって、こういうことなんだね。  僕たちの心と身体……きっと今、同じ状態だ。 それが手に取るように分かるよ。  「参ったな、想がそんな台詞を言うようになるなんて」 「ご、ごめん……幻滅した?」  おそるおそる問うと、駿が明るく笑ってくれた。 「その逆だよ。すげー 嬉しい! よしっ! 何もしないから一緒に泊まろう」 「う、うん」  あ……さっき……何もしないなんて、言わなければ良かったかな?  何かしてもいいと、答えるべきだったのかな?  ぼ、僕ってば、何を考えて。  駿は真剣に具合が悪いのを心配してくれているというのに。  それにしても、思いがけない展開になった。 「想……ツインルームでいいか」 「う、うん」  そのつもりだったよ。僕は……  駿は慣れた様子で、駅前のビジネスホテルを予約してくれた。 「行こう!」  **** 「もしもし、お母さん……ごめんなさい、連絡が遅くなって。今日は終電に間に合わなくてビジネスホテルに泊まるよ。うん、大丈夫。心配しないで」  客室に入ると「ごめんね。先に家に連絡をしていいかな?」と俺に丁寧に断りを入れて、想は自宅に電話をかけた。  いつも律儀で真面目な想だから、こんな時でもきちんとしているんだな。  俺はこんな面も含めて、想が好きだ。  目の前にいる人を、いつも大切にする想の心構えが好きだ。  俺のことを大切にしてくれる想が好きだ。 「体調悪いの、おばさんに言わなくて良かったのか」 「うん……心配をかけるだけだしね」 「そうか、貧血はもういいのか」 「ありがとう……まだ少しだけ頭が痛いけれども、もう……駿がいるから安心だよ」    想が自分の体調を正直に話してくれたので、ほっとした。 「今日は飲み過ぎもあるんだぞ! 全くあんなに飲まされて、酔っ払いにも絡まれて……心配したぞ! ほらっ、水を飲めよ」 「ご、ごめんね……課長のペースが速くって」  冷蔵庫からペットボトルの水を取りだして渡すと、想は申し訳なさそうな顔を浮かべた。 「こんな風に、駿を巻き込むつもりじゃなかったのに」 「巻き込むなんていうなよ! 俺は今、思いがけない展開に、最高に幸せなんだから」  想が水をコクっと飲む。  その一挙一動を目で追ってしまう。  喉仏の動きに、あぁ俺が好きな人は、同じ男なんだと改めて思う。  そして想への愛おしさがますます募る。  もう堪えきれない。  想がペットボトルをテーブルに置くタイミングで、両手で抱き寄せた。 「しゅ……しゅん……っ、ちょっと待って……」  上擦った声だ。  嫌がると言うよりは甘えた様子で、いつまでも聞いていたい想の声だった。  だが今日はぐっと我慢だ。  想が貧血を起すのは、高校時代も何度かあった。  疲れが溜っている証拠で熱を出す前触れだから、無理はさせられない。あの江ノ島で貧血を起した時だって、その後4日間も学校を休んだ。 「……明日もこれを着るんだろ。皺にならないようにしないと」 「あ……そうだね」    怖がらせないように、優しく背広を脱がしてやる。  想は俯いているので表情は見えない。  ただサラサラな髪から覗く耳朶が触れたら火傷しそうな程、赤く染まっていた。  そのままベッドにそっと寝かせた。 「……貧血を起こしたばかりなんだから、少し横になった方がいい」 「……うん」    白いシーツに身体を深く沈めた想が、俺を見上げて何か言いたそうだ。  綺麗な形の唇を、薄く開く。    こんな角度で見上げられるのは初めてで、心臓が爆発しそうだ。 「しゅ……ん、ありがとう」       

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