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もっと、傍に 4

「しゅ……ん、ありがとう」  想が俺の背中にそっと手を回し、縋るような表情を浮かべた。    まるで俺の存在を確かめるように、目を閉じてしがみついてきた。  「駿と一緒にいるのは、僕でいいんだよね?」 「何を言って? 当たり前だ。想……やっぱり疲れた顔をしているぞ、少し眠れ」 「……うん」    身体をずらそうとした時、想の目尻に涙が浮かんでいるのに気が付いた。 「ご、ごめん……俺、また何か怖がらせたか」  想は目を瞑ったまま、首をゆっくり横に振る。 「違うんだ……駿が……戻って来てくれて良かったなって」 「え? どういう意味だ?」 「……ごめん……醜いよね、こんな……こんな感情……」  想は涙を隠すように右手で顔を覆った。   『戻って来てくれてよかった』という言葉に、思い当たることがあった。   「あ……まさか、さっき、駅に向かう俺を見たのか」 「ごめん……こんなこと言うつもりじゃ……本当は僕の方が先に見つけていたんだ」 「ごっ、誤解だぞ! 彼女は同じ部署の同期で彼氏持ちだ。一緒に残業していたら遅くなって、駅までの道が物騒だから送って欲しいと頼まれて」 「……良かった。そうじゃないかと思っていたんだけど……でも……やっぱり少しだけヒヤッとして……でもその後、駿が僕を見つけてくれたから……嬉しくて、もう言わなくていいと思ったんだけど……でも……ごめん……ごめん……」  手の甲だけでは隠しきれなくなった涙が想の頬を伝い下りてくる。  猛烈に想が愛おしくなった。 「想……想……そんなに泣くな」 「こんな感情は知らなくて……高校時代はやり過ごせたのに恥ずかしいよ」 「馬鹿、嬉しい嫉妬だよ。こんなにも俺は想一筋なのに」  想の表情がどうしても見たくて、顔を覆う手を優しく掴んで、枕の横に固定した。 「顔をよく見せてくれ」 「駿……」  泣き腫らした瞳は潤んでいた。   「僕……酷い顔をしている」  細い吐息混じりに弱音を吐く想がいじらしくて切なかった。 「想……」  そっと想の唇を舐めた。 「こんなに泣いて……」 「ごめん、なんだかほっとしたら涙が」 「そういうところも含めて好きだ」  ペロペロと舐めてやると、想がそっと口を開いてくれた。  そっと舌を挿入すると、想の温もりで包まれていく。  キスだけでこんなに感じるのなら、その先は……  先走ってはいけない気持ちと、早く早くその先の温もりを知りたい気持ちがぶつかって正直しんどい。 「しゅ……ん」  艶めいた声に誘われるように、想の火照った耳朶を指で撫でて、そこにも舌を這わせてみた。 「あっ……」  想の腰がビクンと跳ねる。  腰に手を回してキュッと抱きしめ耳を再び舌先で愛撫すると、想がビクビクと震えながら俺にしがみついてくる。  それが可愛くて、何度も何度も繰り返してしまった。  想、可愛い……こんなに震えて。  落ち着かせてやりたくて、サラサラとした髪を手櫛で梳いてやると、少しだけ汗ばんでいた。 「あっ……、んっ……」  今まで聞いたことのない想の艶めいた声に、俺の脳内はいよいよ爆発寸前だ。煩悩とは、まさにこのことだ。  腕の中の想は、酔いがまわったのか少しトロンとしていた。 「しゅ……しゅん……待って……あ、あの……」  このまま、なし崩し的に最後まで抱くことも出来るが、俺の腕の中に収まった想の微かな怯えを感じ取ってしまった。  だからグッと堪えた。  想に覆い被さっていた身体をずらして、添い寝する形で横になった。 「駿……どうして?」 「いいんだよ。想……久しぶりに手を繋いで眠ろうか」 「ご……ごめん……僕は……」 「ばーか! 謝るなよ。少しずつでいいんだ。焦らず、じっくり、ゆっくり……想を味わっていきたい」 「駿、僕を待っていてくれるの?」 「当たり前だ。一緒に歩くんだろう? 俺たちはこの先はいつもずっと」  この先の行為は、二人の気持ちが、心身共に揃ってからでいい。  そう思えるのも、俺たちが『今も初恋中』だからだ。  相手を大事にしたい気持ち、どこまでも追いかけて――      

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