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もっと、傍に 6

 想の高まりの存在と熱を、スラックス越しにしっかり感じていた。   「想……こんなになって」 「しゅ……駿と同じなんだ……僕だって……同じ男だから」 「あぁ、分かっているよ。ありがとうな」     想が俺に欲情してくれているのが如実に分かり、感激した。  ずっと俺だけが欲情を持て余しているのではなかった。  それが嬉しい。  想が「やっぱり恥ずかしいよ」と身を捩るが、そこは譲れなかった。 「駄目だ、離さない」  腰に回した手に力を込めて、密着度を増していく。 「しゅ……ん、も……恥ずかしいよ」  想の潤んだ眼に赤みがさして、ヤバイくらい色っぽい。  その頭を抱きかかえて、背中を擦ってやる。 「このまま寝ていいぞ」 「……こんな状態じゃ眠れないよ」  想が腕の中で肩を小さく揺らして可愛く笑う。  俺は知っている。  想は俺の傍が一番よく眠れるということを。  幼い頃、喘息の発作で上手く寝付けない想の背中を優しく擦ってあげると、次第に微睡んでいった。  俺はようやく眠れた、想の安心しきった寝顔をいつまで、いつまでも見ていたかった。  だから時間が許す限り、眺めていた。  ずっと傍にいたいと願っていた。  もぞもぞとしていた想が静かになる。  やがて……闇に溶け込む規則正しい寝息が聞こえてくる。 「よし、ちゃんと眠れたな」  臨戦状態だった想の高まりが、次第に姿を消していくのが名残惜しく、もう一度だけと下半身を密着させてしまった。  これは駄目だよなぁと、ひとり苦笑した。   この状態で放置されるのは辛いといえばかなり辛いが、それを上回る充足感を得た。  俺の腕の中で安心した寝顔を浮かべる想が愛おし過ぎて。  身体から始まる恋があるのは知っている。  あの日目の前で燃え上がったキャンプファイヤーのような恋の始まりも。  燃え上がるような恋をすることも。  だが俺が選んだのは……  想と心も身体も、足並み揃えて歩む初恋の道だ。  自分のあらゆる欲深い感情をコントロールしてでも、大事に歩みたい人がここにいる。  10年ぶりに出逢った想は、そういう相手だった。  仕事ではいつもの上品な雰囲気の中に凜とした空気を醸しだし、発言もキビキビとしていて冴えている。  27歳になった想は、俺が見惚れる程、格好いい男だ。 「想……いい男になったな」  想に似合う人になろう!  そう思わせてくれる魅力的な人が、俺の恋人だ。 「……ありがとう」  綺麗な形の滑らかな額にキスを落とし、もう一度深く抱きしめた。 「おやすみ、想。いい夢を」  修学旅行の夜を、ふと思い出した。  想の隣で眠ることに、ドキドキした夜を。  今、想は……俺の腕の中にいる。         

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