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もっと、傍に 7
想の安定した寝息に安堵し、俺は一度身体を起こした。
「うはぁ、これは仕方が無いよな。俺、健全な成人男子だからなぁ」
自分の股間の高まりが布越しにもしっかり分かり、苦笑してしまった。
「うーん、コイツは想が隣にいる限り、そう簡単には収まらないぞ」
なので、そろりとベッドを抜け出しシャワーを浴び、身も心もスッキリさせて部屋に戻ると、想は熟睡したままだった。
少し丸まって横を向いて眠っている想の姿に、笑みが浮かぶ。
あの頃と変わらない姿勢だな。 想とは、何度かこんな風に一緒に眠ったことがある。
小学校の修学旅行では、慣れない大部屋に落ち着かない想の手をしっかり握ってやった。俺が手を握ってやると、想は表情を緩め……甘い雰囲気になって静かに目を閉じた。
「ふぅん……男の子なのに長い睫毛だな」
そんな風に思ったものだ。
中学と高校の修学旅行でも、俺は想と同室をもぎ取った。途中クラスが離れてしまうこともあったが、宿泊行事がある学年だけは一緒だったのは奇跡だ。いや縁があったのか。
『想の寝顔は俺のモノだ』そんな独占欲を抱いたのは、いつからだろう。
シャワーの後はホテル備え付けの浴衣を身につけ、どこで眠るか迷った。
この場合ツインルームなのだから、隣のベッドを使うのが筋だよなぁ。
想の布団をかけ直して、一旦隣のベッドに潜るが……全然眠れない!
そりゃそうだよな、付き合っている相手が同室にいるのに。
「何もしないよ」
そう宣言したのは俺の方だ。
「……想、隣で眠ってもいいか」
そこで想がまだスーツ姿のままなことに気が付いた。背広は脱がせたが、ネクタイもしたままだ。
「苦しいだろう。そのままでは」
眠っている想に声をかけても、一向に起きない。
「参ったなぁ」
男同士といっても、想の意識がない状態で服を脱がすのは気が引ける。
一度起き上がりクロークを覗くとアイロンがあったので、このままでも、なんとかなるかと考えた。
「ネクタイは取るぞ……取ってもいいか」
呼吸器系が弱い想だから、喉元だけは楽にしてやりたかった。
するりとタイを解き、襟元のボタンをひとつ、ふたつと外す。
喉仏が呼吸と共に上下している。
細い首、滑らかな肌にドキドキし、目を瞑ってしまった。
想は、本当に綺麗な男だ。
そのまま、セミダブルのベッドにそっと潜り込んだ。
男二人で眠るには狭いが、その狭さに感謝した。
肩を寄せ合い、また手を繋いだ。
想はぐっすり眠ったままで起きないが、今起きられても困るので、このままでいいと思った。
こんなに満ち足りた夜があるなんて!
まだキスしかしていない相手と、添い寝しているだけなのに。
****
明け方、パチッと目が覚めた。
すぐに駿と至近距離で目が合い、ドキッとした。
「想、おはよ!」
「しゅ……駿……おはよ」
昨日あのまま眠ってしまったのか、 駿の腕の中で微睡んで。
「よく眠れたか」
声が上手くでなくてコクコクと真っ赤になって頷くだけ。
「ネクタイだけ、苦しそうだったから外したんだ。ごめんな」
「……ありがとう」
そんなこと、律儀に謝るなんて。
「僕……なんか、いろいろごめん」
「また謝る。想の謝り癖はなんとかしないとな」
「でも迷惑かけて」
「本気で思ってる?」
「あ……」
その通りだ。
もっと素直になろう。
駿に対する感情は隠さない。
「僕……駿と朝から一緒で嬉しいよ」
『朝まで』ではなく『朝から』だよ。
僕たちは未来に向かって進んでいるのだから。
そう告げると、駿も破顔した。
「想は、やっぱりいい男になったな!」
僕の好きな駿の人懐っこい笑顔だ。
朝一番に見られる幸せ。
今日は良い1日になりそうだよ。
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