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もっと、傍に 8
「想、あまり時間がないぞ。早くシャワーを浴びて来いよ」
「あ、そうだね」
「その間に、ワイシャツとスラックスにアイロンをかけておくから」
「え、でも……悪いよ」
「いいから、ほら、早く脱げって」
「う、うん」
「男同士だ。気にすんなって!」
想の負担を軽くしてやりたくて明るく声をかけると、想も素直に笑ってくれた。
そうだ、それでいい。
「じゃあ、これ……よろしくお願いします」
妙に丁寧な口調で、脱いだスーツを俺に託す様子が可愛かった。
想は、下着姿でシャワールームへサッと駆んでいった。
姿勢のよい背中、細い首筋……高校時代より大人びて、そこはかとない色気を感じてしまった。
はぁ、可愛い。
はぁ、しんどい。
はぁ、幸せだ。
アイロン台とアイロンを出して、衣類の皺をグングン伸ばしてやった。
もつれていた俺と想の関係も、二人の熱で平らな道にして行きたい。
きっと……育ちがいい想にとって、急な外泊はかなり大胆なことだったに違いない。そんな風に想がどんどん俺に向かって垣根を飛び越えて来てれくれるのが嬉しくて溜まらない朝だった。
「駿……もうアイロン終わった?」
「あぁ、おっと、その前に髪、ちゃんと乾かせよ」
「あ、うん」
想が備え付けのパジャマのボタンをしっかり留めて、洗面所から顔を覗かせた。
「髪、乾かしてやる」
「んっ」
柔らかな明るい髪に温風をあててやると、想が恥ずかしそうに目を閉じた。
風に吹かれた髪が柔らかな頬を掠めるたびに少し擽ったそうにするのが、見ていて飽きなかった。
そのまま吸い寄せられるように唇を軽く重ねてやると、想が目を見開いた。
「しゅ、駿!」
「一度、やってみたかったこと」
「もしかして……おはようのキス?」
「あぁ、そうだよ」
「それなら……僕もしたかった」
「想も? じゃあ、もっとちゃんとするか」
返事よりも先に、想が少し背伸びをして唇を押し当ててくれた。
風呂上がりの想の……シャボンの香りに包まれて、清らかなキスをした。
「あーもう、たまんないな」
「駿、おはよう」
「想、おはよう!」
サラサラな髪を揺らして、俺を見つめてくれる想。
高校時代よりも明るい瞳に、俺はまた恋をする。
「想、さぁネクタイをして」
「えっ、でも……これは僕のじゃないよ。駿のでもないし……」
想が不思議そうに首を傾げるので、種明かしをしてやる。
「いや、想のだよ」
「どういうこと?」
「あー 実は鞄に入れっぱなしだったんだ。今度会ったらプレゼントしようと思っていたから」
「え?」
「……サプライズもしてみたかった」
「しゅーん……」
最後は抱擁で仕上げよう!
一晩の寄り道は、俺たちの心の距離をグッと近づけてくれたようだ。
想が……もっと、傍に来てくれた。
『もっと、傍に』了
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