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ラブ・コール 1
「想、どうだ?」
鏡越しに、駿と視線が重なる。
鏡の中には予期せぬサプライズに心震える僕が映っていて、駿のどこまでも優しい眼差しに包まれていた。
駿が選んでくれたネクタイは、明るめの紺地に飛行機雲のような白いラインがすっと入ったデザインで、一目で気に入った。
「本当にありがとう。このデザイン、すごく好きだよ」
「良かった。27歳になった想のために選んだんだ」
「駿っ」
今の僕を大切にしてくれる駿が好きだ。
思わず抱きつくと、駿が僕の腰を両手で掴んでグイッと引き寄せてくれた。
「駿……本当にありがとう。今日1日頑張れるよ」
「良かったよ。俺さ……想の笑顔を守りたいんだ」
「僕も何かサプライズをしたい」
「ははっ、サプライズは内緒にしないとダメだぞ」
「あ、そうか、じゃあ……楽しみにしていて」
僕の方から、再び唇を重ねた。
もう一度、もう一度……もっとしたい。
二人を繋ぐキスは、終わりを知らない。
「んっ……んっ……あっ……」
「もっと、聞かせて」
「あっ……」
呼吸が乱れ甘えた声が漏れて恥ずかしかったが、それよりも駿と1分1秒でも長く繋がっていたかった。
絶え間なく求め合っていると、駿のスマホのアラームが鳴ってしまった。
「おっと、タイムオーバーだな」
「……うん……もう行かないと」
「想、早朝ミーティング、頑張れ!」
「ありがとう。駿も頑張って」
「サンキュ!」
僕たちは、対等にエールを送り合える関係になった。
小学校の頃、いつも校舎の窓から見つめるだけだった駿の横を、今は並んで歩けることが嬉しかった。
僕はその後早朝ミーティングで積極的に発言し、仕事をバリバリこなした。駿が締めてくれたネクタイが鼓舞し続けてくれたお陰で、冴え渡った1日だった。
「白石、今日はすごく張り切っていたな」
「そうでしょうか」
「やる気に満ちるのは、いいことだ。さっきの君の発案が早速採用されたよ。だからAチームの開発リーダーを任せることにした」
「あ、ありがとうございます」
その瞬間から僕は更に多忙になってしまった。毎日終電近くまで残業し、ふらふらと帰宅することの繰り返しで、お母さんにもかなり心配を掛けてしまった。
僕は身体を10年かけて少しずつ鍛えてきたので、なんとか倒れることなく乗り越えられたが、通勤にかかる身体の負担は大きくヘトヘトで、夜は駿に電話したくても寝落ちしてしまうことの方が多かった。駿は僕の睡眠を優先させてくれた。
ラブコールは夢の中で、ずっと鳴り続けていた。
(想、がんばれ……大好きだ。想……愛してる)
あの晩、駿の腕の中で一晩過ごしたことが、糧になった。
そんな怒濤の日々が1ヶ月以上も続き、ようやく駿の会社と共同開発したビールの試作品が完成した。
日本発・英国仕込みエールビール 『ラブ・コール』
なんと商品名には駿のアイデアが採用され、テイストには僕の日本食に合う英国ビールというコンセプトが多く取り入れられた。
これは僕と駿にとって『初めての合作』だ。
僕らが高校時代に淡く抱いた夢が、少しずつ現実となり叶っていく。
そして今日はいよいよ駿の会社で試飲会と新商品の発表会がある。
駿の会社に行くのも駿に会うのも久しぶりで、朝から緊張していた。
「お母さん、どうかな?」
「まぁ、やっぱり、そのネクタイにしたのね」
「あ……うん、これは駿にもらったものだから」
「よく似合っているわよ。想の勝負服ね」
「勝負服?」
「ここぞと言う時に着ていく服のことよ。駿くんに久しぶりに会えるのでしょう」
「うん、半月ぶりかな。お互い忙しくてね。休日返上で頑張ったんだ」
「頑張ると、ちゃんとご褒美があるものよ。想、良かったわね」
お母さんがウインクしてくれると、心が軽くなった。
「だから……明日は、駿と……」
「ふふっ、ゆっくりじっくりデートをするんでしょう」
「お、お母さんってば」
何だか、あからさまに言われると恥ずかしいな。
でもお母さん、楽しそう。
「想……年頃の息子を持つ親の楽しみまで、奪わないでね」
「……うん、ありがとう」
今度は僕がサプライズをする番だよ、駿。
怒濤のような日々の、ほんの僅かな空き時間に、駿へのサプライズを考えるのが楽しみで息抜きになっていた。
「じゃあ、行ってきます」
「想、頑張ってね。何かあったら、すぐに駿くんを探すのよ」
「……お母さんってば」
「想はもう一人じゃないのよ」
「ありがとう……お母さんがいてくれて良かった」
「まぁ、想ってば……」
お母さん、ありがとう。
何もかも受け入れて、そんな助言までしてくれて。
僕のしあわせを願ってくれて――
あとがき(不要な方は飛ばして下さいね)
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ここまで駿と想が再会してからの日々を、かなり、じっくりゆっくり書いてきましたが、いよいよ『ラブ・コール』という新しい段の始まりです。言葉からもドキドキしますよね。この先は二人の関係をぐっと詰めていきます。
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