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ラブ・コール 8
久しぶりに裸足で砂浜に立つと、穏やかな熱が足裏にじんわりと伝わってきた。真夏の灼熱の太陽を浴びた砂は、ビーチサンダルを履かないと火傷しそうになるが、今は違う。
爽やかな風が吹き抜けていく。
太陽の熱もギラギラではなく燦々と降り注いでいる。
明るくキラキラした光の中を、僕たちは肩を並べて歩き出した。
穏やかな波の音をBGMにすれば、今なら何でも話せそうだ。
「想、裸足でキツくないか」
「大丈夫だよ。この位の温度は、心地良いね」
稲光を伴う雷雨や、燃え上がるキャンプファイヤーのような激しい恋よりも、夜空に浮かぶ月や星のように静かに瞬く、それでいて恒久的なものが好きだ。僕たちの恋も、そうであって欲しいと願っている。
「駿は僕が高校時代、天文部に入った理由を知っている?」
「うーん、星が好きだったから?」
「それはもちろんそうなんだけど……僕の星は……いつだって駿だったんだよ」
「想……それって最高に嬉しいよ」
身体が弱かったせいで……ずっと駿と同じ土俵に立てなかった僕が見つけた、駿に一番近い場所だったんだ。
「なぁ、この空、夜になったら星が綺麗に見えそうだな」
「うん、その予定だけど……もしも天気予報が外れてしまったら……無理かも」
「きっと見えるよ。少し位、雲が出たって合間に見えるさ」
「……でも厚い雲に阻まれて、全然見えなかったら?」
「その時は、雲の上に星空が広がっているのを、二人で想像するのもいいよな」
「……うん!」
駿の言葉は、いつだって僕を生き返らせてくれる!
さっきの言葉、響いたよ。
僕がずっと嫌いだった性格に、駿が光をあててくれた。
ずっと短所だと思っていたのに、それを長所と?
駿の言葉は魔法だ。
僕は僕を大切にしていいんだね。
自分の身体を自分で抱きしめると、胸の奥に大切にしまってある駿が好きな気持ちが、また一回り大きくなった。
「……どうして僕がこのタイミングでホテルを予約したか、駿は知りたがっていたね」
「あぁ、意外だったんだ。想の言う『いつか』はもっと……ずっとずっと先の未来だと思っていたから」
「……苦しくて」
「え? どうした? 無理させたか」
「違うよ。僕の心がもう駿で満ち溢れているからなんだ。苦しいくらい好きだ、駿」
「想……俺も同じだ、同じ気持ちだよ。だからこのサプライズは最高だ!」
10年間かけて募った想いは、実際に駿と会う度と更に膨れて……もう破裂しそうだ。
だから駿に、全部受け止めて欲しい。
僕も受け止めるよ。
駿の気持ちを全て、この身体で。
「想、近くにいい店があるんだ。海が見えるレストラン。そこでいいか」
「いいね、実は葉山はこの前たまたま通っただけで詳しくなくて……助かるよ」
家から葉山は距離的には近いが、道が狭いので車はいつも渋滞するし、電車だと乗り換えが多く最後はバスを利用しないとならないので、あまり来たことはなかった。だから鎌倉や湘南界隈が地元の人が訪れる機会は、案外少ないようだ。
「やっぱり葉山を選んで大正解だな」
「そうかな?」
「江ノ島だったら、菅野に会ったみたいに他の同級生に会う可能性が高いもんな。でも葉山なら可能性は低いから……想だけに集中出来る。ありがとうな」
「あ……良かった。僕も同じ理由で……ここを選んだんだよ」
「昨日、葉山のこととか……諸々下調べしておいたから、今日は全部、俺に任せろ」
駿の言葉は、心強い。
僕には駿と一つになるホテルを予約するだけで精一杯だったので、いろいろ準備不足でごめん。震える手で予約ボタンをクリックしたんだ。僕には大きな覚悟が必要だったから。
「おっ! 靴、無事だったな」
「うん」
脱ぎ捨てた靴は、ちゃんと元の場所にいてくれた。
「砂、ちゃんと落としてから履けよ」
「う……ん、でも……難しいね」
駿が手早く手で砂を払って靴下を履いたのに、僕はもたもたしている。
「俺の肩に掴まれ」
「あ……うん……でも……」
「いいから任せろ」
駿が僕の前にしゃがみ込み、僕の足首を掴んで持ち上げて砂を丁寧に払い出した。
「くっ、擽ったいよ」
「じっとしてろ」
駿の指先が、僕の足の小指に優しく触れた時、倒れ込みそうなほどの目眩がした。
僕……駿のことが本当に……本当に……大好きだ。
指一本でこんな調子では、この後、駿を全身で感じたら、どうなってしまうのか。
「ありがとう……僕……初心者だから頼もしいよ」
「しょ、初心者って!」
「あ……あの、葉山はっていう意味、いや……それだけじゃない……全部……初めてだから……こんな風に駿に足首を握られることも、小指に触れられることも……」
「わぁぁ……それ以上は今、言うな。ここから動けなくなる」
駿が突然ガバッと前屈みになってしまった。
「だ、大丈夫?」
「……シバラク、オマチクダサイ」
「駿ってば」
時計を見ると、チェックインまであと2時間50分。
一分一秒が愛おしい。
あとがき(不要な方は飛ばしてくださいね)
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1時間を1話どころでなかったです。
今日は10分を1話でした。
こんな調子でゆっくりじっくりですが、二人の心がどんどん高まっていく様子を追ってみたいと思います。どうか気長にお付き合いください。
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