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ラブ・コール 11
「駿、この美術館、気に入ったよ」
「そうか」
「うん、青い海がよく見えるのがいいね」
「よしっ、じゃあ近いうちに、また来よう」
もう一度振り返ると、白い美術館のエントランス全景が見えた。
窓の向こうに広がる青い海と白い内装に、目を細めた。
白と青は、僕と駿みたいだ。
次にここを訪れる時には、僕の身体は、駿と結ばれた後だ。
そんなことをふと考えると、身体の芯がじんわり火照ってきた。
駿も同じ気持ちなの?
あぁ……だんだんもどかしくなってきた。
早く、早くこの気持ちを絡ませてしまいたくなる。
「どうした?」
「あ……えっと……そうだ、お揃いで買うなら、やっぱり僕が白で、駿が青がいいなって」
「りょーかい!」
駿の笑顔が眩しい。
うっかり旅行鞄を忘れてしまったが、それはそれで良かったのかも。
洋服を一緒に買いに行くなんて、初めてだよね。
マリーナまでは、海岸に沿った道を歩いた。
途中で今日泊まるホテルの前を、無言で通過した。
な、何か……喋らないと。
「駿、僕らの高校からもいつも海が見えたね」
「あぁ、海は落ち着くよな」
「うん、だから……ここがいいと思ったんだ。部屋から青い海が一望出来るって書いてあったから」
「……耳に届くのは、波の音だけじゃないんだな。今日は……」
ラブ・コールを意識しているのが伝わって、顔が赤くなる。
それって、それって……あぁ……僕は本当にちゃんと出来るのかな?
途端に不安で押し潰されそうになる。
「僕……やっぱり心配だ。やっぱり……上手く出来そうもない」
「大丈夫だ。俺がリードする!」
「……駿は……その……経験……あるの?」
駿がよろっと傾いた。
「はぁぁぁ……想は……想は、そういうこといきなり聞くなー!」
「ご、ごめん……」
「ない! 男は想だけだ。この先はもうずっと想だけだ」
駿はいつだって男らしく真っ直ぐだ。
白昼堂々ストレートな告白に、僕の気持ちも解れていく。
「良かった。緊張しているのは僕だけじゃないんだね」
「俺もヤバイくらい緊張してる。今は、とにかく進むのみだ」
「そうだね」
ところが、いいムードでやってきた洋装店で、僕は素っ頓狂な声をあげていた。
「えっ‼ 駿……ちょっと待って……お揃いって……ふっ、服のことじゃないの?」
「何言ってんだ? 最初からパンツのつもりだけど?」
駿が嬉々として、青いパンツと白いパンツを手に持ってニカッと笑うので、脱力してしまった。
「ボクサーパンツタイプだけど、いいよな」
「う、うん」
「そう言えば、想はいつもは何?」
「ええっと……」
もう恥ずかしくて照れ臭くて、涙目になってしまう。
「俺、お揃いのパンツを穿けるなんて、最高に幸せだよ」
そんなハードルが低いのか高いのか分からないことを、子供みたいに無邪気に。でも……確かに、駿とお揃いのユニフォームを着た人は沢山いるけれども、パンツは僕が初めてかも。そう思うと僕も何だか嬉しくなってくる。
「おっ、想、機嫌直ったか」
「うん、不思議と嬉しくなってきた」
「良かったよ。あとさ、俺、流石に同じスーツを三日はないから着替えを買いたいんだけど……これとこれ、どっちがいい?」
シンプルな白と青いポロシャツだった。
「……白がいいかな」
「お! じゃ、そうするよ」
きっと明日の僕は、駿の色に染まっている。
きっと明日の駿は、僕の色が混ざっている。
時計の針はチェックインまで、刻一刻と迫っていた。
いよいよだ。
とうとうこの時がやってきた。
「……ふぅ、10分前か。今からゆっくり歩いて行けば丁度いいな」
「うん、行こう」
僕らはゆっくりと歩き出した。
行き先は、ふたりだけの世界。
駿……ひとつになろう。
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