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ラブ・コール 21

 太陽が水平線に沈むと、取り残された空がドラマチックな色彩の変化を見せるマジックアワーと呼ばれる時間がやってくる。  水平線は燃え上がるようなオレンジ色に、天空は濃いブルーになっていく。  窓の外一杯に広がる幻想的な色合いに、俺に抱かれた直後の想の身体が溶けていくように見えた。  ただ純粋に綺麗な身体だと思った。想は俺と同じ男で、同じ器官を持っているのに、どうして……こんなにも美しいのか。   「想……」  優しく背後から抱きしめ首筋に顔を埋めスンと嗅ぐと……途端に甘い香りが立ち上り、またドキドキした。  しっとりと汗ばんだ身体が生々しくもあり、欲情しそうになる。  夜空のように……冷静と情熱の狭間に、心が揺らぐ。  もうこれ以上は駄目だ。  これ以上抱いたら……想の身体の負担になる。  気持ちを切り替えるためにも、一度身体を清めた方がいい。 「想、シャワーを浴びよう」 「うん……あっ」  ところが歩こうとした想がカクンと膝を崩してしまったので、慌てて抱き上げた。  こんな風に女みたいに扱ったら、想のプライドが傷つくだろう。  想は男で、そして俺は男の想が好きなんだ。  それでも、こうやって想を横抱きにして運んでみたかった。 「どうして叶えたいことだったの?」 「高校時代、体育の授業中に倒れただろう」 「うん……そんなこともあったね」  想が恥ずかしそうに頬を染める。 「体育の先生が軽々と抱き上げて運んで行くのを見て……羨ましかった」 「そんなことを思っていたの? 僕は恥ずかしくて死にそうだったのに」 「今も恥ずかしいか」  想はゆっくり首を横に振った。 「ううん、駿だから……恥ずかしくはないよ。駿は僕の全てを知ってしまったから」 「ドキっとする言い方だな」 「僕はね……だいぶ丈夫になったけど、正直に言うと、この前にみたいにまた倒れたりすることもあると思う。疲れて熱を出しやすい体質もそのままだ。でも駿にだけは、弱い僕を曝け出せるんだ」  想をシャワールームに運び、そっとタイルの上に降ろしてやる。 「俺は……想の強さも弱さも愛してるよ」 「ありがとう。あっ……」  想が突然不快そうに顔を歪めて、俺にもたれてきた。 「ど、どうした? 具合がやっぱり悪いのか」 「ちっ、ちがくて……」  耳まで真っ赤になって、俺の胸元に頭を押しつけてくる。 「お、おい……っ」 「内股に……駿の……が……」 「あ……悪い、いきなり中で出して……」  そっと手を想のほっそりとした内股に這わすと、どろりとした液体が指先に絡まった。 「わ、ほんと……ごめん! ちゃんと出さないとまずいな」 「えっ」 「ちゃんと処理しておかないと、駄目なんだ」 「あ……っ、やっ……指……挿れないで……もう」 「掻き出すだけだ」  俺……なんて卑猥な言葉を連発しているのか。  想が真っ赤になってジタバタしている。  相当、恥ずかしいらしい。 「おい、そんなに暴れるな……大丈夫だから。信じてくれ」 「う……うん」  想の内側を傷つけないように指を折り曲げて、中に溜まった液体を丁寧に掻き出してやった。 「あっ……んっ……」  恥じらうように控えめな声で、想が再び小さく啼いた。  さっきより一段と艶めいた声で……  参ったな。 「また抱きたくなる。そんな声を出すなんて」   ボディソープの泡で想の身体を優しく包んで温かいお湯で清めてやったが、湯は流れても……俺たちに芽生えた欲情の灯は消えていなかった。  お互いの下半身を見つめて、苦笑してしまった。 「あ……僕……また……どうしよう。しゅーん」 「想……ヤバイって……そんな目で見るな」 「でも……」 「無理して明日、起きられなくなったらどうする?」 「分かってはいるけれども、止められないんだ。いや……今日は止めたくない」  想の前向きな気持ちが、今は嬉しかった。  ラブ・コールは一度限りではない。  何度でも、何度でも……求めてもいいだろう。  初めての夜を越えて、迎える夜がやってくるのだから。  夜の帳が下りた部屋で、俺は再び想を抱く。

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