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ラブ・コール 22
「想……想……そろそろ起きられそうか」
「えっ……」
次に駿に呼ばれた時には、部屋がすっかり明るくなっていた。
これって、まさか……朝日なの?
状況がよく飲み込めず焦点が合わないまま、駿を見上げた。
「駿……あの……今……何時?」
「……朝の9時前だよ」
「‼‼」
飛び起きようとしたが身体が鉛のように重く腰も怠くて……とてもすぐには動けなかった。
「も、もしかして……昨日……僕……途中で寝ちゃった? ご、ごめん!」
昨夜シャワーを浴びると外は暗くなっていた。そのまま窓辺のベッドに自ら仰向けになると、駿が優しく覆い被さり、全身に優しい愛撫を繰り返してくれた。
僕は波の音を聴きながら身体の力を抜いて、駿に身を任せた。リラックスしたせいか、途中からとても気持ち良くなって……そ、それで?
「駿、僕は……もう一度……出来た?」
「あー、それは……あんまり気にすんなって」
「やっぱり、あのまま寝ちゃったの? 起こしてくれたら良かったのに」
「……気持ち良さそうだったから、起こしたくなかったんだ。お陰で次の楽しみが出来たよ」
駿はさっぱりとした様子で明るく笑ってくれた。
もうシャワーを浴びたらしくシトラスの香りを爽やかに振りまいて、昨日買った青いパンツに白いポロシャツ姿だった。
「それ、いいね……僕も着替えたい。駿と同じになりたい」
まるで子供が強請るように駿のポロシャツの裾に手を伸ばした。駿とお揃いになるのは、昨日からの楽しみだったから。
「分かった。その前に湯船に浸かるといい。腰の怠さ……少しは緩和されるぞ」
「う、うん……そうするよ」
僕は、まだ裸だ。
「あの……何か羽織るものはある?」
「脱衣場にバスローブがあったから持ってくるよ」
もう駿には全てを曝け出したのに……朝日に包まれると……ひ弱な身体が心許なくなってしまった。
「ほら、これを羽織るといい」
「ありがとう」
大きなサイズのバスローブに包まれると、ふと昔を思い出した。
「ちょっと想には大きいか」
「これって……高校の時に着ていたダッフルコートみたいだね」
「それ! 俺も今、同じことを思い出していた」
父が英国出張のお土産で買ってきてくれたダッフルコートは、ひとまわり以上もサイズが大きく、僕が着るとだぶだぶだった。父の中ではこの位逞しく成長して欲しい願望があったのかもしれない。学生時代にアメフトをやっていた父との体格差は、著しいものがあった。
それでも高校の制服の上に羽織ると、袖丈は長いが何とかなったのでホッとした。
父の期待には添えないけれども、無駄にならなくて良かった。
……
「想、おはよう!」
「駿、おはよう」
「お! 新しいコートにしたのか」
「うん、お父さんが英国で買ってきてくれたんだ」
「流石だな。あぁ……そうか、外国サイズなんだな」
駿はブレザーの制服にマフラーしか巻いていないのに、少しも寒くなさそうで羨ましい。それに比べて僕は重装備過ぎて恥ずかしいな。
「やっぱり……大きくて不格好だよね。もう着るのはやめるよ」
「んなことない! ちょうどいい!」
「ちょうどいいって……それは言い過ぎだよ」
「そんなことないよ。それより手が冷たいな! 想、暖めて!」
「え?」
駿が手に息を吹きかけると、白くなった。
そのまま、いきなり手を繋がれた。
「‼」
「想の手は、やっぱり温《ぬく》いな」
長すぎる袖の中で手をギュッと握りしめられて、胸が高鳴った。
「これなら目立たないから、いいよな?」
「う、うん」
小学校の頃は、よくこんな風に手を繋いでくれた。
久しぶりに繋いだ駿の手は、あの頃よりずっと逞しく、力強くなっていた。
……
「あの時、駿が久しぶりに手を繋いだから、びっくりしたよ」
「俺は高校生の男同士が……どうやったら目立たずに手を繋げられるか、そればかり考えていたんだ。だからあのダッフルコートをいつも着てこいって強請っただろう」
「くすっ、しつこいくらいにね。でも……嬉しかったよ」
「あの年の冬は……そんな思い出ばかりだな」
「……うん、そうだね」
それは僕が旅立つ年の冬だった。
まさかその年の夏に……10年という長く悲しい別れが近づいているとは知らずに、僕たちは淡い触れ合いを手繰り寄せては、砂糖菓子のように微笑んでいた。
「駿……もう一度、手を繋ごう。もう離さないよ」
僕が手を差し出すと、駿がバスローブの長い袖の中でしっかりと握ってくれた。
「想、改めて昨日はありがとう」
「僕の方こそ、ありがとう」
「もう離さない」
「うん、僕はいつも一緒だよ。しゅーん……僕は駿と走り抜けたんだね」
「あぁ、一番近い距離にずっといてくれた。愛してる、想」
「僕も同じくらい愛している」
ラブ・コールは、朝まで鳴り止まなかった。
眠ってしまった後も、何度も何度も耳元で囁かれた愛の言葉を、僕の鼓膜が覚えているようだ。
駿とひとつになれた喜びを抱きしめて迎えた朝。
僕の胸に宿ったのは、駿への変わらぬ恋心だった。
初々しく瑞々しい気持ちは、抱かれる前と少しも変わらない。
むしろ増していた。
「駿、僕……今もやっぱり初恋をしているよ」
「あぁ、俺も最高にフレッシュな気分だ」
これからの日々も、こんな風に僕たちはお互いの初めて積み重ねて、初恋を続けて行くんだね。
あとがき(不要な方は飛ばして下さい)
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社会人編を再稼働させたのは、二人が初めて結ばれるまでをしっかり書きたいという気持ちが強かったので、ここまで書けて満足しています。結ばれるまで、かなりゆっくりな展開だったにも関わらず、毎話追いかけて下さってありがとうございます。
この先も自然の流れに沿って、彼等の歩みを書いていきたいです。この後、湯船で想が初体験を反芻するシーンや、ペアルックでデートするシーンや、自宅に戻ってお母さんに話し掛けられる様子なども気になってワクワクしています(笑)今日は……すみません。朝チュンでした😅まぁ想の体力を考えると……そうなるかなって。その前4時間もですものね。
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