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初恋前線 1
今日は社会人編を連載するにあたり一旦取り下げた『七夕の日のSS』を大幅に加筆し、流れに合わせてアレンジした内容になります。
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想のお父さんを空港で見送ってから、1ヶ月ほど過ぎた。
もう七月だなんて、想と巡る時間は早い。
「よしっ! 今日は珍しく仕事が順調に終わったぞ!」
久しぶりに残業せずに帰れる。
そうだ、想に連絡してみようか……
想も最近新しいプロジェクトを任されて残業続きだったし、土日は一人になったお母さんを気遣って、とにかく最近ちっともゆっくり会えていないんだ。もう限界だ。せめて声だけでも聞きたいよ。
急いで帰り支度をして会社の玄関を出ようとすると、営業から戻って来た同じ部署の女性社員とすれ違った。
「あら、青山くんは珍しいわね。もう上がり? あ、そうだ、販促品いらない? また余っちゃったのよ」
「今度は何?」
「小さな子供向けの物なんだけど」
目の前にチラつかされたのは、100円均でも売っていそうな短冊セットだった。
「あ、今日って7月7日か。ってことは……」
「捨てちゃうだけだから、もらってくれる?」
「欲しい!」
そうか! 今日は七夕だったのか!
ここ数日の忙しさに失念していた。
深呼吸してから、想に連絡した。
「想、今日会えばいか。凄く会いたい」
「駿……僕も同じこと思っていたよ。実は久しぶりに残業せずに出られたんだ、今どこ?」
ほら、また想とタイミングが合った!
再会してから、俺たちの時計の針は同じ時を刻んでいるんだ。
「俺も帰るところ、なぁデートしないか」
「いいね。あのね……我が儘言っても?」
「あぁ何でもドンと来い!」
「じゃあ……よく星が見える所がいいな。駄目かな?」
いつもは優等生っぽい話し方をするのに、オレ限定で甘える想が可愛すぎ!
「駄目なはずないだろう! じゃあ想の地元の海に行くか。俺、もうすぐ新宿駅に着くよ」
「いいの? あ、僕も……じゃあ一緒の電車で」
「あぁ!」
通話を終えると、まるで高校生のように心が躍り出した。
約束した車両に乗り込むと、想がちゃんといた。
少し頬を上気させ、俺を見つけるとニコッと微笑んでくれた。
かっ! 可愛い過ぎだろう。
あぁ……スーツ姿の想は最高だ。
誰にも見せたくないよ。
「あそこ、席が空いてるから座ろうぜ」
「この時間に帰れるのは久しぶりで嬉しいよ」
「お互い、今週もよく働いたな」
「毎日午前様で……眠いよ」
想が小さな欠伸をした。
「着くまで寝てていいよ。起こしてやるから」
「……ありがとう」
想は眠そうに目を擦ったあと、すぐに電車の揺れに合わせて船を漕ぎ出した。
サラサラの髪が腕に触れる度に、トキメキが生まれる。
高校時代、試験明けに揺られた江ノ電の中を思い出す。
メトロノームみたいに揺れる想が可愛くて、いつまでも乗っていたかった。
想の最寄り駅を通過し、終着駅で降りる。
「おぉ! 今日はよく晴れていたから、星がよく見えるな」
「うん! 駿にいいもの持ってきたんだ」
想は手提げ袋から、白い箱を取り出した。
「何?」
「これね、天の川をイメージしたゼリー」
「お、俺もいいもの持っているぞ」
「何かな?」
短冊セットを取り出すと、想が可愛く肩で笑った。
「七夕の工作セット? 懐かしいね」
「一緒に作らないか。そのゼリーを食べながら」
「いいね。満天の星の下でピクニック気分だね」
「あぁ」
砂浜に下りる階段に腰掛けて夜空を見上げると、天の川までは流石に見えないが沢山の星が瞬いていた。
「想と一緒に過ごす初めての七夕だ」
「今日会えたらいいなって思っていた。このデザート、僕も企画に加わったんだ。よかったら味見してくれる?」
「すごいな! する、する!」
「じゃあ、どうぞ」
「え?」
想がスプーンで掬って、俺の口元に運んでくれた。
そ、想ってさ、時々大胆だよな~
だけど、こういう所も大好きだ。
「ううう、いい大人が恥ずかしいな」
「ここには誰もいないから大丈夫だよ。ほら、あーん」
あーんって?
想が珍しくお兄さんぶっている。
レアな想に会えてラッキーだ!
「旨い! すごく爽やかな味だな」
「天の川の部分と夜空の部分……味と食感にメリハリをつけたんだ」
「見た目も綺麗だし、味も最高だな」
「よかった」
想がニコニコと微笑んでいる。
「なぁ想も味見したのか」
「……試作品は何度もね」
「ふーん、今日は?」
「今日はまだだよ」
「じゃ、これで」
想の後頭部に手をグイッと回して唇をムギュッとしっかり重ねると、想が目を見開いた。
「だ……駄目だよ。こんな場所で」
「誰もいないって、さっき想が言っていたぞ」
「も、もう……」
「美味しいか」
「……いつもより甘いかな?」
首を傾げて小さく笑う想に、俺……もう蕩けそうだ。
「想……俺たちは、もう10年も待たなくてもいいし、一年に一度なんかでもなくて、今日みたいに思い立ったら会社帰りにふらりと会えるんだな。後は……そうだ、短冊に願い事を書いてもいいか」
「あ……僕も……」
「書くか!」
「うん、書く!」
想にしては砕けた幼い返事だった。
どんな願い事をするのかな?
「それぞれの願い事を書いて、このビニールの笹に吊そうぜ」
「いいね」
ふたりで後ろを向いて願い事を書いた。
「書けたか」
「うん、駿は?」
「書いたぜ、熱望を」
「……ぼ、僕もだよ」
「せーの!」で短冊を見せ合った。
「あっ!」
「おっ!」
駿とまた、ひとつになりたい
想とまた、ひとつになりたい
想と繋がったのは、まだ一度きりだ。
あれから想のお父さんが赴任してバタバタして、仕事も忙しくなってゆっくり出来ていなかった。
「ううう……やっぱり見ないで……恥ずかしいよ」
「そんなことない! 最高に嬉しいよ。それって俺と同じ願い事だ!」
「う……うん」
「あー、俺、もうこっちに引っ越すよ」
「え……どうした? 何かあったの?」
「バーカ、今あっただろう! 俺たちだけの居場所が欲しいんだ。だから都内の独身寮は出て、ここに戻ってくるよ! こっちで一人暮らしをするよ。そうしたら想と一緒に通勤出来るし……俺さ……想と過ごす時間がもっと欲しいんだ!」
想はその先を想像して、真っ赤になっていた。
「最高の願い事だったよ。想……ありがとうな」
「駿……僕の本心だよ。また……繋がりたいんだ」
おぉぉ……今日の想は大胆だな。
七夕っていいな。最高だ!
今も初恋、この先も初恋を繋げていく俺たちにとって、素直に願い事を言い合える日だ。
「駿、たまには願い事を書くのもいいね。普段なかなか言い出し難いことも言えて……」
「同感だ。なぁ、またキスしても?」
「うん……あ、あのね……駿がこっちで一人暮らしを始めたら、遊びに行ってもいいかな?」
「当たり前だ。その時は覚悟しておけよ」
「うん……分かった」
「……寝かさないぞ」
「うん、頑張るよ」
「はぁ……可愛いなぁ、想は」
唇が自然と吸い寄せられていく。
甘いゼリーの余韻。
夜空に浮かぶ星。
手元で揺れる短冊。
重なる手と手。
触れ合う唇。
ドキドキ、ワクワク、ドクドク……
色々な音が、身体から花火のように弾け出す。
今日も俺と想の『初恋前線』は活発だ。
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