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初恋前線 5

 窓の向こうに広がるのは、想がいつも見つめていた海と星空だ。  幼い頃、喘息の発作で眠れない夜は、いつも海と星に慰めてもらったと話していた。  この景色は、きっと想を落ち着かせる。  だから、どうしても譲れない条件だった。  まだ照明も取り付けていない薄暗い部屋で、廊下のダウンライトと月明かりを頼りに、想の身体に触れていく。  シャツのボタンに手をかけると、想も目を細めて外すのを手伝ってくれた。  自ら脱いでくれる甘い仕草にグッとくる。 「駿……僕の都合で長く待たせてごめん」 「馬鹿、そんなこと謝るなって。それに何度も言うが、待つのは苦じゃなかったよ。ゴールが見えていたから」 「んっ」  露わになった想の首筋に顔を埋めて鎖骨や首筋に口づけする。  優しく印を押すように。 「あっ……っ、あっ……」 「ここ……感じるんだな」 「……んっ」  少しずつ身体を下にずらし胸の粒を口に含んだ。まだ小さいそこを舌で掘り起こすように舐めてやると、次第にキュッと固くなってくる。尖った粒を指の腹で優しく擦ったりしていると、想の胸の上下がひっきりなしになっていく。 「想? 苦しいのか。随分と鼓動が早いな」 「ひさしぶりだから」 「そうか。俺もすごく興奮している」 「僕もだよ」    溜まらないといった表情で、想が俺の首に腕を回して抱きついてくれた。  こういう所、可愛いなぁ。  胸も下腹部も自ら密着させてくれているんだな。  ずっと待っているだけだった想からの積極的なアプローチに、俺の方もドキドキしてくる。 「待てよ。久しぶりだから、しっかり慣らしてからだ」 「ん……分かった」  想のベルトに手をかけて、中を確かめる。 「もう、こんなになっていたのか」 「だから……僕も切羽詰まって」  下着に差し入れた指先には、甘い蜜がとろりと纏わり付いてきた。 「こんなに濡らして」  濡れた指先を後ろの蕾に這わして塗り広げてやると、ピクピクと震えた。あの日と変わらず……とても狭く慎ましく熱っぽい場所だ。 「あまり……焦らさないで」 「想、煽るな。滅茶苦茶にしたくなる」 「そうしても……いいから……っ、早く、早く」  いつも慎重な想から急かされるのは、新鮮だ。 「はぁー 想は俺を煽る天才だな。なぁ、もうこんなには待たせないよ。想が安心して俺と一つになれる場所が欲しかったんだ。初めてつながったホテルのような海が見える部屋で、いつも想を抱きたいという夢があったから」 「……それは僕の夢でもあるよ。ありがとう……夢を叶えてくれて」  何度か都心のシティホテルやラブホテルも考えたが、人工的な星が眩し過ぎた。 「よし……だいぶ解れたか」  想の身体を絶対に傷つけたくないので必死に自制心を呼び起こし、小さな入り口を丁寧に解し続けた。 「ん……あっ、あっ……もう……もう駄目……」  想が強請るように腰を揺らし、俺と繋がることを待ち望んでいるのがダイレクトに伝わり、嬉しくて泣けてくる。シャツの袖を抜き下着ごとパンツを引き下ろして、生まれたままの姿にしてやった。 「やっぱり綺麗な身体だ」  日焼け知らずの滑らかな肌は、俺と同じ男のものとは思えない。全身を優しく隈なく愛撫しながら、俺も全てを脱ぎ捨て、覆い被さっていく。  想がハァハァと肩で息を吐きながら懇願してくる。 「もうっ、待てない……もうっ、早く」  想がこんなに乱れてくれるなんて!  ほっそりとした太腿を掴んで大きく開き、ガチガチになったものを押し当てた。 「んっ……」  腰をズンと押し進めると、先端がつぷりと想の中に飲み込まれていく。  あたたかく柔らかい想の中に、包まれていく。 「あぁ……気持ちいいな」  二度目の逢瀬に俺の頭は前回よりクリアになっていたが、想は違った。身体を小刻みに震わせて、目をキツく閉じて息を詰めている。 「どうした?」 「あ……駄目……で……出ちゃう」 「ん?」  そのまま腰をグッと最後まで押し進めると、想が喉を反らすと同時に俺の腹に熱い飛沫がかかった。 「えっ」 「ご、ごめん……僕……どうしよう」    先に達してしまったことに動揺する想が可愛くて、愛おしくてたまらない。 「そんなに待ちきれなかったんだな」 「ごめん……ごめんね」 「いや、最高に嬉しいよ」  こんなに俺で感じてくれるなんて最高だ! 俄然やる気になる!  達したばかりの想の腰を強くホールドし、腰を更に小刻みに揺らしてやった。 「あ……待って……待って……まだ」 「俺も待ちきれない!」  腰を突き上げ、もう一度快楽の渦に巻き込んでいく。 「ううっ……あっ……」  想がぐずぐずになって乱れていく。  月明かりを浴びた身体は、どんなに乱れても清潔な香りを放つだけだ。 「あ……あ、……また……」  想が好き過ぎて……凪いだ海のように抱きたいのに、荒れ狂う波のようになってしまう俺を許してくれ。 「怖くないか」 「駿がいるから、怖くないよ」  それは幼い頃の台詞と、全く同じだ。    箱根への林間学校、夏の夜の肝試し。    クラスの男女比の関係で、俺と想はペアになった。  …… 「青山、白石、夜道に気をつけろ」 「はい! 先生」 「いいか、はぐれないように最後まで手を繋いで行動すること」 「あ……はい」  高学年になって男同士で手を繋ぐと揶揄われるようになったから、想と手を繋ぐのは久しぶりだった。 「想、行こうか。怖くないか」 「……僕、おばけは苦手だな」 「じゃあもう回ったことにして戻る?」 「ううん、それじゃ駿が楽しめないよ」 「……俺は充分楽しいけどな」  想と久しぶりに手をつないで歩けるだけで。 「駿がいるから、怖くないよ」  夜道は暗く、想の表情が見えないのが悔しかった。  ギュッと力を込めてみるとキュッと握り返してくれるのが、愛おしかった。  …… 「想、顔を見せて」 「ん……」  上気した頬、潤んだ瞳。  あの日の想も、こんな表情をしていたのか。 「手をつないで、しよう」 「うん……僕ね……駿と手を繋ぐのが昔から大好きなんだ。知ってた?」 「あぁ、知ってた」  シーツに手を縫い止めて、耳元で囁いてやる。 「今度は一緒にゴールしよう」 「ん……わかった」  想も俺に合わせて、腰を自ら揺すってくれた。  一方的に抱くのでも抱かれるのでもなく、手をつないで一緒にひとつになっていく。  これが想と俺のスタイルだ。  最後は頭の中が真っ白になって、二人で弾けた。  真新しいシーツは皺くちゃで、少し肌寒かった部屋は二人の熱が充満し、窓硝子が白く曇っていた。  まるで優しいベールをかけてもらったような、ふんわりとした心地だ。  二人で広いベッドに仰向けになって手をつないだまま、息を整えた。 「俺たち、ここで……いつもひとつになろう」 「うん……来週、また、しよう」 あぁ、こんな時でも律儀に次の約束をしてくれる恋人の存在が、愛おしい! 「想、俺……幸せだ」 「僕も駿がいるから、幸せだよ」  俺たちの『初恋前線』は、今日も活発だ!  明日も明後日も何年経っても、恋の花は満開だろう。  くるりと寝返りを打ち向き合い、額をコツンと合わせて微笑んだ。  それから互いの手の平に、優しいキスをひとつずつ。 「想、七夕の願い、ちゃんと叶ったな!」 「駿と一緒に叶えられて、嬉しいよ」                         『初恋前線』了

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