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大切な人 6

「想も駿くんも、こっちにいらっしゃい」 「うん!」  想があどけない返事をして、おばさんに向かって微笑む。  想は昔から素直で可愛げがあるよな。  そういう所も、ずっとずっと大好きだ。  俺はつい母さんに文句を言ってしまい素直に礼を言えないから、見習いたいが、なかなか出来ないんだよな~ まぁ俺の母さんもそんな柄じゃないから、これはこれで上手く回っているのかもな。  どんなスタイルでもいい。心をちゃんと通わせられるのが一番大事だ。 「駿も行こう」 「あぁ」  レジャーシートに広げられた昼食は華やかに盛り付けられ、まるで花畑のようだった。明るい日差しを受けて輝き、新鮮で美味しそうだ。 「お母さん、こんなに可愛いのを作ってくれてありがとうございます」  想がおばさんに丁寧にお礼を言うと、先ほどまで泣いていた瑞樹君が涙を拭いて顔を上げた。 「これは、想くんが頼んでくれたんだね」 「僕は小さい子に不慣れで分からなくて、お母さんに可愛いのをと任せたんだけど……瑞樹くんにとって良かったのかな?」 「ありがとう。とても嬉しい巡り合わせだったよ。まさか……またこれを食べられるとは思っていなかったので、つい泣いてしまってごめんね」  瑞樹くんが恥ずかしそうに笑うと、想も寄り添うように優しく微笑む。  もう秋なのに二人の間に、スズランの花が見えたような気がした。  優しい人の微笑みは、柔らかな空気を生み出すんだな。 「これは私が若い頃に少女雑誌に掲載されて大流行した『花束サンド』なの。きっと瑞樹くんのお母さんと私は同世代ね。瑞樹くんは想と同い年だと聞いているし」 「そうだったのですか。はい……きっと、そうだと思います。きっと生きていたら、今でも作ってくれていたんじゃないかな」  瑞樹くんは、もう泣いていなかったが、そっと……おばさんに亡くなったお母さんの面影を重ねているように感じた。  そうか……今は失ってしまったものでも、記憶の中にはしっかり残っているのか。その記憶を呼び起こせば、心の中に会いたい人の顔や姿を見ることが出来るんだな。  おばさんがそっと瑞樹くんの頬に手をあてた。 「瑞樹くん……あなたはお母さんに沢山愛されたのね。だからしっかりと記憶が残っているのね。あなたの中に眠る記憶は、お母さんの愛そのものよ。記憶というカタチで、今もあなたを包んで、今も愛してくれているの」 「あ……そんな風に考えたことはなかったです。素敵ですね。そうか……お母さんは、もういないけど……今も僕に愛を注いでくれているのですね」 『記憶に残る愛』か。  心に響き、心に残る言葉だな。  想と俺も、そんな愛を注ぎ合いたい。 「駿……記憶に残る愛って素敵な言葉だね。僕は母がそんなことを考えていたなんて、瑞樹くんと知り合わなかったら聞くこともなかったよ」 「想、この歳になって新しい誰かと出逢うって、きっと大切な意味があるんだな」 「うん、そう思うよ。瑞樹くんに対して自分でも驚くほど積極的に誘えたのは、この瞬間のためだったのかもしれないね」 「大切にしよう。俺たちの新しい友人を」 「うん!」  昼食の後は、キャロットケーキと温かいミルクティーでティータイムをした。  そう言えば……瑞樹くんがログハウスの件を母さんに聞きたいと言っていたな。まずはゆっくり大人だけの方がいいだろう。一方メイくんは、じっとしているのが退屈になってきたらしく、もぞもぞしている。子供って分かりやすいよな。俺もメイくんタイプだから、よく分かる。 「想、メイくんを誘って来てくれないか」 「えっ僕が?」 「頑張って!」 「う、うん」  想が少しだけ困った顔で、俺を見つめてくる。 「大丈夫だよ!」  想には誘われる方も誘う方も、体験して欲しいんだ。 「メイくん、よかったら僕たちと一緒に遊ばない?」 「うん! あそぶー!」  メイくんの満面の笑みを浴びた想は、本当に嬉しそうだった。  小さな君も、今日から俺たちの友だちだ。  さぁ童心に返って、遊ぼう! 「駿……あのね、僕も小さい頃、原っぱで遊んでみたかったんだ」 「今からでも遅くないさ! 一つ一つ叶えていこう!」  想の夢は、俺の夢だから。  いつだって一緒に。   

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