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絆 1

   今日は最初に前置きをさせて下さい。  のんびり、ほのぼのと書いて来た社会人編ですが、ここで2年後にワープします。次の節目に向かって大きく展開させますので、宜しくお願いします。 ****  お父さんが単身で海外に赴任してから、あっという間に2年が経っていた。  その間、駿と僕の初恋は順調に育っていた。  あれから料理のレパートリーもかなり増え、仕事も順調だった。  お父さんとのFAXを利用した文通も、続いている。    お母さんとのラブレターも、もちろんね。  週末には駿のマンションで愛し合い、朝はいつも交差点で待ち合わせをして一緒に通勤するのが、僕らのルーティーン。  僕は大きく体調を崩すこともなく、平穏無事に過ごせていた。  平和で幸せでのどかな日々を、満喫していた。      11月下旬。  いつもより、ひんやりとした朝のことだった。  朝、自室で普段通りネクタイを締めていると、ガシャンと何かが派手に割れる音がした。  慌ててキッチンに駆けつけると、お母さんがテレビの前でお盆を持ったまま固まっていた。  足下を見るとマグカップが割れたらしく、床に砕け散っていた。 「お母さん、怪我はなかった? 今、片付けるから」 「……」 「どうしたの?」    お母さんの様子が明らかにおかしい。怪訝に思い視線を辿ると、朝のニュースが海外での事故の速報を、重々しく伝えていた。 『速報・エジプト・カイロ近郊にて現地時間の23時、50代の日本人男性が乗車した車が対向車と衝突し、死傷者が出ている模様です』    ニュースのテロップに、僕の手もピタリと固まった。  カイロ?  お父さんのいる場所と離れているが、近い場所だな。  他人事とは思えず、事故に遭った方の無事を心の中で祈った。  するとお母さんが何かを思いだしたように叫んだ! 「そ……想、どうしよう! お、お父さん……昨日からカイロで仕事だって言っていたわ」 「えっ!」 「想……お父さんは無事よね?」    返事をしようにも、喉がカラカラで声が出なかった。 「ど……どうしよう……」 「お母さんしっかりして! 正しい情報を聞いてから判断しないと」 「そ、そうよね。お父さんに電話してみて」 「うん」  何度もお父さんに国際電話をかけるが、応答はない。  FAXも送ってみたが、返事もない。  どうにかして安否を確かめたいのに……  どうか折り返し電話をして下さい。  元気な声を聞かせて下さい。 「想……お母さん、どうしたらいい? こんな時どうしたらいいの? あぁ……あなた」 「お母さん、しっかりして」   そこに鳴り響く電話。  嫌な予感がする。 「僕が出るよ。もしもし……」  震える手で応答すると、お父さんの会社からだった。 「白石部長息子さんですか。先程のニュースをご覧になりましたか」 「……はい」 「残念ながら白石部長が乗車している車でした。現地の情報が錯綜しているため……安否が分かりません」 「えっ……」  お母さんも僕も、絶句した。  情勢が不安定な中東の国への赴任。  現地スタッフを厳選しているらしく、お父さんは多忙過ぎてこの二年一度も帰国出来なかった。僕たちが行こうとしても「危ないから来るな」の一点張りで、ずっと生身のお父さんに会えていない。見送った空港が最後だった。  砂漠に放り投げられたような荒寥《こうりょう》たる胸の内だ。  お父さん、どうか……どうか無事でいて下さい。  しっかりしろ想!  こんな時こそお母さんを守るのが、僕の役目じゃないか。  お父さんに頼まれたのに……僕の手足はガクガク震えるばかりでちっとも役立たない。  パニックになった。  今までにない追い込まれた状況に、息が苦しい。  お母さんと僕はその場に蹲ったまま、動けなくなった。  こんな時、どうしたらいいのか……  ふと……昔、駿が教えてくれた言葉を思い出す。 (想、辛かったらすぐ俺を呼べ。絶対駆けつけるから。想を助けるから)  駿……駿……  心の中で必死に駿を呼ぶと、インターホンが鳴った。  ビクッと震えると「想、いるか」と駿の声がした。 「あ……駿、しゅーん」  足がもつれて上手く歩けない。何度か壁に肩をぶつけながら玄関を開けると、血相を変えた駿が立っていた。 「想、大丈夫か。朝のニュース見て気になって……想、いつも時間に遅れないのに来ないから、心配になって飛んで来た」 「しゅーん……ど、どうしよう? 車にお父さんが乗っていたみたいなんだ。会社から連絡があって……情報が錯綜しているから……安否が分からない」  そこまで話すと立ちくらみがして、駿に抱き抱えられる。 「想、想、しっかりしろ! 俺にもたれろ、深呼吸しろ!」 「駿……怖い……」 「大丈夫だ! まだ何も分からない。悪い事ばかり考えるな!」  駿の声が、僕を励ましてくれる。  駿の手が、僕を支えてくれる。  僕はひとりじゃない。  お父さんと約束したことを守る時が来たんだ。   あとがき(不要な方は飛ばして下さい) ****   突然の急降下でしたよね。最初から決めていた展開ですが、こういう展開にする時は緊張します。スタンプやスターも激減覚悟で書くので、作者もしんどいです💦 どうかハッピーエンドを祈って下さい。ハッピーエンドに辿り着けるように、頑張って書いていきます! 以下、他サイトの情報で、申し訳ありません。 このタイミングで2万スター達成しました! いつもありがとうございます。 本編切ない展開の癒しとなるように、甘い内容のスター特典を書きました。 10スター特典『Sweet Potato Apple Pie』です。 https://estar.jp/extra_novels/26044707   

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