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絆 14
「想、お父さんと一緒に日本に戻ってこい! 俺が迎えに行くから」
「……そうしても……いいの?」
「あぁ」
力強く伝えると、海の向こうの想の声が濡れた。
おそらくお父さんも想の体調を心配して、苦渋の決断を下したのだろう。
親は子を想い、子も親を想う。
お互い想い合いすぎて、時に行き違いが生じることもある。きっと今日のお父さんと想はそういう状態だったのだろう。
お父さんが想の帰国を促すのは、ある程度想定内だった。
何故分かるのかって?
それは俺と思考回路が似ているからさ。
想が心配で堪らない気持ちが痛い程分かる。
想は屈強で頑丈な男ではない。
異国の地で、何かあってからでは遅い。
だからここ数日、想のお母さんと相談してリハビリを受け入れてくれる病院を探し、お父さんの会社にも連絡し奔走していた。
「想、今のは思いつきじゃない。実はもう全て整っているんだ。リハビリ先も、お父さんの仕事先も了承済みだ。だから安心して帰って来い」
「駿……駿はすごいよ。僕ひとりでは、そこまで出来なかった。ここでの生活が精一杯で。実は最近少し体調が悪くて不安だったんだ。この先、お父さんをひとりで支えきれるのかなと……」
やはりな。
以前の想だったら、俺にここまで話してくれただろうか。何もかも明け渡した関係だから、分かり合えるようになったのだ。
想とひとつになれて良かった。
俺……想を支えられるようになった。
「しゅーん、僕の心の鍵を預かってくれてありがとう。実は今日はかなり落ち込んでいたんだ」
「あぁ、きっとお父さんも同じように落ち込んでいるさ」
「うん、そうかもしれないね。明日には笑顔で『もう日本に帰ろう』と誘えるよ」
「あぁ、頑張れ!」
「ありがとう。しゅーん、大好きだよ」
熱の籠もった甘えた声に、俺の涙腺も緩む。
「日取りが決まったら、カイロまで迎えに行くよ」
「え……そんな気軽に」
「車椅子のお父さんとの帰国になる。ヘルプが必要だろ」
「で、でも」
「想に少しでも早く会いたい」
「あ……僕も……僕も会いたいよ」
「もうひと頑張りだ。もうすぐだ!」
「うん。とにかくお父さんを説得するよ」
「大丈夫、きっと上手くいくよ」
「ありがとう」
俺に出来ることは全て手を打った。
あとはお父さんの心次第だ。
今のお父さんなら、きっと選ぶ。
そう確信している!
****
駿との電話を終えたら、安心して急にお腹が空いた。
お父さんに帰国を促されたショックで食欲がなくなり、何も食べていなかったことを思いだした。
「あ、そうだ」
お父さんに差し入れようと作ったスイートポテトアップルパイの残りを冷蔵庫から出して、口に入れた。
「うーん、やっぱりお母さんには敵わないな」
エジプトのサツマイモは比較的日本で食べる味と変わらなかったが、林檎はヨーロッパやアメリカからの輸入品が多く鮮度の問題なのか日本で食べるほどでは……これ、レシピ通り紅玉で作ったらもっと美味しいだろうな。
でもやっぱり懐かしい味だ。
「お母さん……」
急に母と話したくなって、国際電話をかけてしまった。
「……お母さん]
「想? 想なのね、どうしたの? 泣いていたの?」
「えっ、何で分かるの?」
「あなたのお母さんだからよ」
こんなやりとりにも、しみじみと感謝する。
僕には、この世で心配し理解してくれるお父さんとお母さんがいる。
それって……とても幸せなことで奇跡なんだね。
「いつもありがとう」
「どうしたの、急に?」
「お母さんも……お父さんに会いたいよね」
「もちろん会いたいわ。今すぐそっちに飛んで行きたいわ」
お母さんの話は続く。
「お父さんだけじゃなく、想にも会いたいわ」
「お、お母さん、僕も……僕も同じです」
「じゃあお父さんと一緒に、もう戻って来たら?」
「うん……そうしようと思う。明日、お父さんに話すよ」
「あのね、駿くんが色々段取りしてくれて、我が家は車椅子でも過ごせるようになっているのよ。だから安心してね」
「そうなんだね。本当に駿は心強いな」
「駿くんとチームを組んで連携プレー中よ。お母さん、駿くんにいっぱい励ましてもらったわ。あなたの駿くんって素敵ね。みんなあなた達の帰国を待っているわ」
こんなにもお父さんの帰国を待ってくれる人がいる。
きっと伝わる。
皆からのラブコールは、きっと届く!
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