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新しい生活 3

「じゃ、じゃあ失礼します。お父さんの前で……緊張しますよ」 「まぁ、そう固くなるな」 「おーい、想、ちゃんとベッドで寝よう」 「う……ん、しゅーん……つれてって」  想は一瞬起きたかと思ったが、自分を抱くのが駿くんだと分かると甘えたような仕草を見せ、また瞳を閉じてしまった。  駿くんは照れ臭いのか、耳まで赤くしていた。  やれやれ……想は彼氏限定で甘えん坊になるのか。 「わ、想、今はまずいって」 「ははっ、おい、動揺して落とすな」 「は、はい! じゃあ、ちょっと寝付かせてきます」 「あぁ、ごゆっくりな」 「お、お父さん~ 俺で遊んでいませんか」 「ん? 婿修行のつもりだが」 「ひっ!」 「くくっ、駿くんは愉快だな」  久しぶりに声を出して笑った。  そう言えば赴任先でも若林と打ち解けてからは、こんな風にざっくばらんに話して、笑顔の絶えない明るい職場だった。  若林は10歳以上年下だったが、赴任歴は私より2年も長いので頼りにしていた。私が家族の話をすれば、彼も家族の話も沢山してくれた。息子さんの名前が『聡一くん』と聞いて親近感を覚えた。だからソウくんが重い病にかかったと聞けば私も胸が痛み、私の分の休暇を譲って息子の傍に行かせてやった。  そのことに後悔はない。  私がしてやりたかったことを、若林にはしてもらいたかった。  息子さんが不安な時、頼もしい父親が見える場所にいる、触れられる場所にいるというのはとても心強いだろう。  私は幼い想が辛そうなのを見ていられず、いつも目を逸らしてしまった。  いつからだったか想が私に敬語を使うようになったのは。あまりに久しく話していなかったので、ぎこちなくなってしまったのだ。  成長して想が健康になっても、私達の距離は埋まらなかった。想も私もお互いを大切に想いながらも、どうやって接していいのか分からなくなっていたのだ。 「想はいつもそんな風に君に甘えるのか」 「え? い、いや……その……」 「ふっ、もういいよ。手が痺れただろう。流石の君でも」 「は、はい。じゃ寝かせてきます」  駿くんに横抱きにされる息子の安心しきった寝顔に、私は心の底から安堵した。  カイロでは日に日に疲労感を増す息子に手を貸してやることが出来ず、辛かった。窓辺の椅子で転た寝をする想に触れたくても触れられなかった。  窮屈な姿勢を寛がせてやりたくても、ベッドから動けなくて悔しかった。  今も足は自由に動かない。  自分自身の身体すら支えられない状態なのだから、想を抱き上げてやることなんてもっての他だ。  だが私は……生きている。  だからそれを卑下するのではなく、ありのまま……受け入れたい。  カイロで来る日も来る日も自問自答した結果、辿り着いた答えだ。 「駿くん、想は君に任せたよ」 ****  想の部屋に入ると、1ヶ月不在だったとは思えないほど空気が澄んでいた。  お母さんが毎日換気をし、リネン類も洗濯してくれたのだろう。  お日様の匂いがするベッドに、想をそっと沈めてやった。 「想……少し眠れよ。1ヶ月頑張ったな。なぁ聞こえるか。走りっぱなしは身体に良くないぞ。適度な休憩が大事だ。それから水分補給も忘れんな」  想のサラサラな髪を撫でてやると、綺麗な額が見えた。 「……おやすみのキスはいるか」  返事を待たずに、そっと額に口づける。  だがそれだけで足りるはずもなく、俺はすぐに想の唇に自分の唇を重ねた。  うう、まずいな。  これでも足りないなんて……  想の唇は柔らかくて心地良い。  この1ヶ月、無機質な端末としかキスしてなかったもんな。  うう、ヤバイ……止らないよ……  寝かせてやりたいのに、もっと想が欲しくなる。  もっと、もっと。  駄目だ、駄目だ!  我慢しろ! 想の身体を大切にしろ!  想は疲労困憊なんだ。  歯を食いしばって離れようとしたら、想が目をパッと開いた。  それから恥ずかしそうに……  でも明確な意志を持って、俺を呼んでくれた。 「しゅ……ん、キスしたい。もっと……」  

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