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聖なる初恋 6

まずい! 想へのプレゼントを選ぶのに夢中で遅くなってしまった。     待ち合わせのテーラーに向かって走っていると、俺を軽々と抜かしていく男性と子供がいた。  ん、随分足が速い親子だな。  あれ? この二人って……もしかして! 「あのっ、宗吾さんと芽生くんじゃないですか」 「あっ駿くんだ! こんばんは!」  芽生くんが、子供らしいハキハキとした声で挨拶をしてくれた。  初めて会った時より背が伸びたな。そして相変わらず礼儀正しい子だ。 「こんばんは芽生くん。お父さんとこんな時間にお出かけ?」 「はい! 今日はお兄ちゃんのクリスマスプレゼントを選んでいたんんです」 「ようっ! 駿くんは想くんのプレゼントか」  宗吾さんが、俺の大荷物を見て笑った。 「はい、嵩張る物を選んだので」 「俺たちは小さいのにしたよ。嵩張る物は毎年兄が用意してくれるんだ」 「パパ、おじさん、またあれをくれるの?」 「あぁ、干支が一周するまではきっとな」  楽しそうな親子の会話につれられて、俺の頬も緩んでいく。  クリスマスが近くなると、年末で気忙しいのに心はポカポカになっていく。皆、大切な人の喜ぶ顔が見たくて、街中を駆け回っているからか。  俺も想と24日は二人きりのクリスマスパーティーをするので、その準備でそわそわしている。 「瑞樹くんとは待ち合わせですか」 「あぁ『テーラー桐生』という店で待っているよ」 「え? そこって今から俺が行く所ですよ」 「なんだ、君もあの店の常連なのか」 「いえ、俺は初めてで、想が英国時代に店主と知り合ったのが縁で」 「へぇあの店の地下には、いいBARがあるんだよ」 「どんな?」 「俺たちみたいなカップルにうってつけの」 「いいですね。想と一杯飲んでいこうかな」 「俺も瑞樹をほろ酔いにさせようと目論見中さ。フフッ」  宗吾さんの下心があからさまに匂ってきて、俺も釣られてムラッとした。  ほろ酔いの想は、頬が桜色に染まって色気が出る! 「おい、鼻の下が伸びているぞ」 「えぇ?」  慌てて鼻の下に手をあてると、芽生くんに笑われた。 「駿くん、伸びているのはパパの方だよ。駿くんはまだセーフ!」 「そ、そう?」 「でも気をつけてね」 「そうそう、夜道は暗いからな」  なんて揶揄われた途端に、石段に躓いてこけそうになった。 「ははっ覚束ない足取りだな。おっと約束の時間をだいぶ過ぎてしまった。芽生、急ごう!」 「うん!」 「俺たちは先に行くぞ。瑞樹が待ってる」  俺を置き去りにして、一目散に走り出す親子にポカンとした。  いやいや、待て。  俺だって想を待たせている。  よーしっ、宗吾さんより早く店に到着するぞ! 「待ってください!」  俺も師走の街を、駆け抜けよう!  想の元に一刻も早く辿り着きたい。  店の前に息を切らて到着すると、大柄な男が扉を塞いでいた。 「あの、すみません」 「ん?」 「あれれ? 丈じゃないか」 「なんだ、宗吾じゃないか」    宗吾さんとその男性は知り合いのようで、驚き合っていた。 「もしかして洋くんもここに?」 「あぁ、テーラーで私へのクリスマスプレゼントを選んでくれている」  少し自慢気に呟く男性は、まるで自分を見ているようだった。 「ところで君は?」 「俺は青山駿です。滝沢ファミリーと仲良くさせてもらっています」 「そうか、私は張矢 丈だ。よろしく」 「はい」  少しクールな男性だが、心に暖かいものを持っている気がした。 「立ち話もなんだから、中に入ろうぜ」 「あぁ」 「おう!」  ところが、我先に可愛い恋人を迎えに行こうと三人同時に狭い入り口に飛びこんだものだから、身体がドア枠につっかえてしまった。 「わ! おい、君、狭いぞ」 「こっちこそ、先に行かせてください~」 「ダメだ! 俺が一番初めだ」    三人で手足を動かしてジタバタしていると、大河さんが出て来て大爆笑された。 「はははっ、まるでクマのポーだな、甘い蜜を狙う食いしん坊な奴らめ!」 「そんなぁ~ 引っ張って下さい」 「あーあ、格好悪いな」  俺たちは店主によって助けられた。 「やれやれ、スーツが皺くちゃだ。瑞樹ぃ、どこだ?」 「パパ、お兄ちゃんがいないよ」 「想、どこだ?」 「洋、どこにいる?」  大河さんが笑いながら扉をもう一度開ける。 「君たちの姫は地下だよ。BARで飲んでる」 「なんだって?」 「洋くんと仲良くなったのさ」  そうか、想にまた新しい友だちが出来たのか。その言葉にほっこりしていると、隣で宗吾さんと丈さんも嬉しそうに微笑んでいた。  どうやら皆、同じ気持ちのようだ。 「これは、少し早いクリスマスプレゼントだな」  俺たちは一目散に階段を下り、BARの入り口で姫の名を呼んだ。 「想!」 「瑞樹!」 「洋!」  ところが、返事はない。  見るとカウンターが花畑のように色めいている。  三人は頬を薔薇色に染め、話に夢中になっていた。 「想、お父さんのことでずっと張り詰めていたから、久しぶりに友達と会えて良かったな。いい笑顔だな」 「瑞樹もまるでピクニックしているかのように楽しそうだ」 「洋、皆と仲良くなれて良かったな。それにしても、あんな表情もするのか」  俺たちは可愛い姫を守る騎士のように神聖な気持ちになっていた。  カウンターに並ぶ恋人たちの笑顔は、俺たちへのクリスマスプレゼントのようだった。  一足早いクリスマスが、ここにもやってきた。  その後はそれぞれのペアで挨拶を交わし、家路についた。   「あぁ……なんだか偶然が重なって、楽しかったよ」 「よかったな」 「駿が来てくれるのが分かっていたから、心から楽しめたんだ。しゅーん、ありがとう」  ほろ酔い気分の想が、街灯の下で可憐に微笑んだ。  甘い甘い蜜のような笑顔に、思わず赤面してしまった。  桜のように色づいた頬に、今すぐキスをしたくなる、 「どうしたの? 顔が赤いよ」 「想が可愛すぎるからだ」 「そんな……でも嬉しいよ。駿の好きな僕でいたいからね」  付き合って2年経っても、想は相変わらず清らかだ。  誰も踏みしめていない雪原のような身体を、早く抱きたい。  聖なる夜が待ち遠しい! あとがき(不要な方は飛ばして下さい) **** クリスマス特番で『重なる月』と『幸せな存在』とのクロスーバーは今日までです。この『テーラー桐生』『BARミモザ』がクロスオーバー拠点になりそうですね。大河さんと連の話もいずれ書きたいです。 駿と想の二人きりの1日をじっくり書きたいです。 二作品、未読の方には長々とお付き合い下さり、ありがとうございます。

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