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聖なる初恋 7

 あっという間に24日、クリスマスイブを迎えていた。 「想、そろそろ出掛ける時間じゃないのか」 「あ、うん、えっと……」 「これを持って行くといい」  お父さんがお母さんに頼んでワインセラーから取り出してくれたのは、よく冷えたシャンパンだった。 「こんなに高価なの、いいの?」 「今晩は駿くんとクリスマスパーティーをするのだろう?」 「そうだけど……」 「これは美味しいぞ。フランス出張中に出逢って気に入った銘柄で、今日のために取り寄せたんだよ。だがお前は酔いやすいし夜道は危ないから、心配だな。そうだ、今日は泊まって来るといい」  お父さんからそんなに寛大な言葉をもらえるなんて、驚いた。 「お父さん……いいの?」 「あぁ駿くんと楽しんでおいで」 「ありがとう」  今度はお母さんが紙袋を渡してくれる。 「想、これは明日の朝食のパンよ」 「ありがとう」 「クリスマスリース型に編んでみたのよ、可愛いでしょう。あと英国のクリスマスティーも入れておくわね。シナモンなどのスパイスが利いて温まるわ」 「ありがとう。まるで遠足に行く子供みたいだね」 「私たちはそんな気分よ。想、自分の顔を鏡に映してご覧なさい」 「え?」  リビングの飾り棚の上の鏡を覗くと、桜色に頬を上気させた僕がいた。 「えっと……その……」 「想、行っておいで」 「想、楽しんで」  車椅子に乗ったお父さんに見上げられるのはまだ慣れないが、父と子の距離がぐっと近づいたようで嬉しい。 「行ってきます」  マンションを出ると、正面にダッフルコートを着た駿が立っていた。  僕を見つけるなり白い息を吐きながら嬉しそうに手をブンブン振ってくれた。 「想、荷物持つよ!」 「わざわざ迎えに来てくれたの? 徒歩10分の距離なのに」 「待ちきれなくてさ」 「嬉しいよ。そのコート、新調したの?」 「これは想とのデート用だ! 毛布みたいに暖かいし大きいから、すっぽり入れるぞ」 「くすっ、確かに」 「さぁ行こうぜ」  僕たちは冬空の下を、ゆっくりと歩き出した。  一歩、また一歩、僕たちの距離が近づいていく。  駿の部屋の扉を閉めた途端、もう待ちきれない様子で性急にキスをされた。  僕も嬉しかった。  お父さんの元へ旅立つ時、切羽詰まった状態で受けたキスとは違う、蕩けるような甘いキスだった。 「あっ……駿……待って……荷物……シャンパン……冷やさないと」 「え? シャンパンなんて持って来てくれたのか」 「お父さんが持って行きなさいって」 「くぅー 流石大人の男性だ。やるなぁ」 「それから、酔っ払うと危なっかしいから、泊まっておいでって」 「うぉぉ……そこまで!」  駿にぎゅうっと抱きしめられた。  僕の身体は駿のダッフルコートの中に潜り込み、まるで毛布の中にいるようだった。 「想、想、想! 今からどうやって過ごそう? あぁ興奮してきた。飯が先か、想が先か」 「少し落ち着いて、時間ならたっぷりあるし今日が限りじゃない。とりあえず食事を作らないと。そのあとゆっくり……その」 「だな! 一緒にビーフシチューを作る約束していたからな」 「うん、僕も余裕はないけれども、今作って置かないと食べ損ねてしまいそうだからね」  僕たちはお揃いのエプロンとミトンでキッチンに立った。  引っ越し祝いにもらった物なので少し色褪せて汚れていたが、僕たちの思い出が詰まっている。 「想、玉葱は俺がやるよ」 「でも」 「想はすぐ泣くだろう」 「ありがとう。じゃあ僕は人参とじゃがいもを剥くね」 「お互い、包丁を使うの上手くなったよな」 「2年間、週末ごとに調理実習したからね」  コトコトと具材を煮込んでいる間、僕たちはソファに座ってお気に入りのクリスマスソングを聴きながらクリスマスティーを飲んだ。 「へぇセイロンティーにドライフルーツとスパイスか」 「癖がなくて美味しいね」 「あぁ。そういえば高校生の頃はクリスマスイブかクリスマスがいつも終業式だったよな」 「そうだったね」 「いつも意識していた。想と過ごしたくて」 「僕も終業式の後は部活がないから、駿と一緒に帰れるのが嬉しくて……離れがたかった」 「だから今日は離さないぞ」 「うん」  僕たちは抱き合った。  温もりを確かめあった。  唇を重ねあった。  少しスパイシーな口づけも、深めていけばすぐに甘くなる。 「あ……っ」 「もう止まらない」 「僕も……」  駿が触れる場所は、どこもかしこも感じてしまうので大変だ。 「あっ……もう、ダメ。まだ……ダメだ」 「やっぱり飯より、想が先だな」 「僕たち、その方がいいかも」  お鍋の火は一度消した。 「あとは余熱で煮込めばいい」 「それもまた美味しいよね」  窓辺のベッドに押し倒される。  駿の体重を受けながら、目を閉じる。  白いセーターを脱がされ、シャツのボタンもあっという間に外されて…… 「シャワーはあとな」 「んっ……でも」 「どうせベトベトになるし、あとで一緒に入ればいい」 「ま、待って。僕……少し空いてしまったから……ちゃんと出来るか心配だ」 「ちゃんと慣らしてからするから、安心しろ」 「ん……」  身体の力を抜いていく。  この1ヶ月、僕は走り抜けた。  お父さんを救いたい一心だった。  ようやく自分に目を向けられる。  それというのもお父さんが助かって、車椅子でも前向きで明るくいてくれるからだ。 「想、偉かったな。すごかったよ。想がお父さんを救ったんだ」  足を持ち上げられて恥ずかしい姿勢を取らされ、蕾に駿の視線を感じて真っ赤になっていた。駿は何度もクリームを足しながら、そこを丁寧に解してくれた。 「駿に会いたくて、駿と一つになりたくて……我慢するの、大変だった」 「可愛いことを。純白の雪原のような想と繋がれるだけでも信じられないのに……」 「駿に触れたくて、駿の息吹を感じたくて仕方がなかった」 「そろそろ大丈夫そうだな。想、ひとつになろう」 「うん……」  僕は駿の広い背中に腕を回して逞しい肩甲骨を撫でた。  肩甲骨は羽根の名残。 誰が言い出したかは分からないが、とてもロマンチックな言葉だ。 「駿は力強い翼を持っている」 「想と一緒に大空に羽ばたけるようにさ」 「駿……」  僕は駿にしがみついて、自ら腰を浮かせて擦り合わせた。  既に勃ちあがったものが、駿の下腹部で揺れている。   「あぁ……」 「想、もどかしそうだな」 「気持ちいい……駿の身体……すごくいい」 「俺も想の身体が好きだ。しっとり吸い付くきめ細やかな肌も最高だ」  自然な流れで、駿を一気に身体の内部に受けとめていた。 「あぁ……っ」 「くっ」  実に1ヶ月ぶりの逢瀬に、思わず感涙を落としてしまった。 「想? 泣いているのか」 「う、嬉しくて」 「俺もさ」  優しく目元の涙を吸ってもらうと、明るい笑顔になれた。 「お腹……空いたね」 「あぁ、ディナーにしよう。良く冷えたシャンパンも飲もう」 「すぐに酔ってしまうかも」 「早く酔わせたい」  恋人同士の甘い会話は尽きない。  聖夜を迎えるから、いつもよりずっと長く深くつながっていたい。  僕たちの身体を初恋色に染めあげて――  クリスマスを一緒に迎えよう。  I wish you a merry Christmas!            

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