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聖なる初恋 8

 聖なる夜だ。  一度の逢瀬で済まないことは、お互いによく分かっていた。  ただかなり長い時間貪り合ったので、僕も駿も空腹の限界を超えそうになっていた。 「ちょっと休憩してろ」 「ごめんね」 「想の方が負担が大きいんだ。ここは甘えろよ」  駿が先に起きてキッチンに立って暫く経つと、ビーフシチューの美味しそうな匂いが漂ってきた。 「お腹空いてきたね」 「そろそろ起きられそうか。夕食前に一度シャワーを浴びた方がいいな」 「うん……そうさせてもらおうかな」  1ヶ月以上間隔が空くのは、久しぶりだった。この2年間、週末にはいつも身体を重ねていたから。重たい腰を庇うようにさっとシャワーを浴び、バスローブ姿でダイニングに戻ると、駿が僕の髪に指を伸ばしてきた。 「想、髪の毛はちゃんと乾かさないとダメだぞ」 「あ……まだ濡れていた?」 「あぁ、ちょっと来い」  もう一度洗面所に連れ戻されて、ドライヤーの熱風を浴びる。 「もう大丈夫だよ」 「ダメだ。想は風邪ひきやすいから厳重にな」 「ん……」  それは否定できないので、素直に従った。  鏡越しに目が合うと、チュッと首筋にキスを落とされた。 「あっ……そこは」 「大丈夫、服を着たら見えない場所だ」 「そうだね」  そのままキツく吸い上げられると、赤い跡が残った。 「あ……」 「ごめん……したかった」 「ううん、嬉しいよ」 「はぁ、幸せだ」 「そんなに嬉しいの?」 「あぁ嬉しいに決まっているさ!」 「じゃあ僕もつけてあげる」 「え? い、い、いいのか」 「僕だって、したいんだ」 「じゃ、ここ、ここがいい!」  駿が嬉しそうに指をさした箇所に背伸びして口づけてみた。 「どうかな? あれ? 何もついてないね」 「もっと強く吸わないと」 「こう?」 「もう少しだ」  僕は全くもって不慣れで、キスマークひとつ付けられない。  何度かやり直して、ようやくうっすら残すことが出来た。 「出来た! あれ? 少し位置がずれちゃったかな?」 「上出来だよ! 想、よく出来たな。最高のクリスマスプレゼントだ」  駿が僕の髪をクシャッと撫でて誉めてくれる。 「これだけじゃないよ。ちゃんとしたプレゼントも準備したのに」 「あとで交換しよう!」    僕たち……何をしても嬉しくて、何を話しても幸せで、お互い蕩けるように笑顔になっていた。 「さぁ、夕食にしようぜ」 ****  シャワーを浴び上気した頬の想。  少し大きめなバスローブから覗く肌色が、色っぽすぎて目の置き場に困る。 「シャ……シャンパンを注ぐよ」 「ありがとう」     繊細な気泡が次から次へと浮き上がるのを見つめていると、また高揚した。    久しぶりに想と繋がれた興奮は冷めやらない。  想の身体の中は柔らかく暖かく……居心地が良すぎるんだ!  想が微笑んでグラスを差し出したので、俺もグラスを傾けた。   「メリークリスマス、想」 「メリークリスマス、駿」    一口飲めば細かい気泡が溢れ、膨よかな香りとフルーティーな味わいが駆け巡る。 「美味しいな」 「良かった。お父さんはこういうの見つけるのが上手なんだよ」 「想のお父さんはグルメだもんな」 「それを言うなら駿もだよ」  想が楽しそうに笑えば、俺も愉快な気分になってくる。 「想が美味しくて堪らない。後でお代わりしてもいいか」 「何度でも……今日は朝まで一緒にいられるのだから」 「久しぶりだな」  ビーフシチューとサラダ、生ハムなどのおつまみを並べた食卓は華やかだった。 「駿、クリスマスプレゼント交換はいつしようか」 「そうだな、今するか。俺たちこの後かなりお互いに酔う予定だから」 「くすっ、確かに」  大きな包みと小さな包みを交換しあった。 「なんだろう?」 「開けてみて。ちなみに想のはね、お父さんとお揃いだよ」 「うぉ~ 想の大好きなお父さんとお揃いなんて光栄だよ!」 「良かった。駿なら……きっとそう言ってくれるかと思った」   **** 「剛さん、お待ちかねの荷物が届いたわよ」 「あぁ、クリスマスに間に合って良かった」 「これは想にプレゼント?」 「君には別の店でアクセサリーを選んだよ。本当は一緒に見に行きたかったが」 「手段は臨機応変によ。心のこもった贈り物が、うれしいわ」    私は帰国後すぐにオンラインストアでクリスマスプレゼントを準備していた。  この足では気軽に買い物にも行けない。だが上半身はやる気に満ちていたので、不慣れだがオンラインストアを利用してみることにした。便利な世の中になったものだ。  本当はいつものように直接店に行き、生地に触れてサイズを確かめ、綺麗にラッピングされた包みを持って家路につきたがったが、今は致し方ない。 「オンラインで選ぶのは難しくなかった?」 「そうだな。だが、これは定番商品だし、子供用は以前買ったことがあるからイメージ出来たんだ」 「え……このお店の子供用を以前にって、もしかしてあのフランネルのパジャマ?」  由美子は意外そうな表情を浮かべていた。 「あの日のことを覚えているか」 「えぇもちろんよ。想が五歳のクリスマスの夜、大発作を起こして生死を彷徨って怖かったわ。でもあの発作を最後に……不思議なことにあそこまで酷い発作は起こらなくなったのよね」 「あぁ、あれが想の峠だったのかもしれないな」 「翌年は、あの赤と緑のタータンチェックのパジャマを着て元気に過ごしてくれて嬉しかったわ。あのパジャマのお陰かもしれないと想も気に入ってよく着ていたわよね」 「あぁ、だからあのパジャマの大人用を選んでみたんだ」  由美子に教えてやると、今度は嬉しそうな顔をしてくれた。 「素敵! 素敵よ。とても暖かいパジャマだし、またあのパジャマを着た想に会えるなんて」 「なぁ、あの頃の想の写真を見せてくれないか」 「えぇアルバムに。今日は二人きりだし、ゆっくり昔のアルバムでも見ましょうか」 「いいね」  明日の昼まで、私たちは二人きりだ。  想が家を出たら、由美子とこんな風に過ごす。  それもまた楽しみだ。  今はそう素直に思えるようになった。  きっとあの子達なら、頻繁に遊びに来てくれるだろう。 「クリスマスティーをいれるわね」 「シュトーレンも頼む」 「えぇ」  穏やかな日常。  この2年間、待ち望んでいた日々だ。 あとがき **** 他サイトの情報で申し訳ありません。 エブリスタのスター特典で、5歳の想にぜひ会って下さい🌟 赤と緑のタータンチェックのパジャマを着て微笑んでいる可愛い想です。 ほしふるほたるさんが描いてくださいました。 15スター特典➯https://estar.jp/extra_novels/26053623

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