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聖なる初恋 10
「おばさん、俺は何をすればいいですか」
「あら駿くんってば、主人は『お父さん』と呼ぶのに、私はいつまでも『おばさん』なの?」
「あっ」
キッチンで想のお母さんに指摘されて、確かにと思った。
「すみません。つい昔からの癖で……あの、そう呼んでも?」
「もちろんよ。お父さんとお母さん、揃っている方が私も嬉しいわ。あなたのもう一人のお母さんにしてくれる?」
「もちろんです! お母さん!」
「良かった。本当はもうずっと前からそんなつもりで接していたのよ、あなたはいつも想の友だちで、兄弟のように仲良くて……そして想の恋人になってくれたから」
想の恋人か。
改めて想をこの世に産んでくれ人から言われると、気が引き締まる。
「俺たち、もう、ずっと一緒です」
「ありがとう。想にはあなたがぴったりよ。どうしてもっと早く気付いてあげられなかったのかしら」
「いや、今でいいんです。離れ離れだった10年は苦しかったですが、もう一生分の苦しみを味わったので、あとはずっと幸せでいられます」
「あら?」
お母さんがじっと俺の首元を見つめて来る。
「何か付いてます?」
「付いてるわ。まぁ……あの子ってば、そんなことするなんて」
「あぁ!」
首元を手でなぞって、ハッとした。
ドライヤーで想の髪を乾かしているうちに、艶めいた首筋に欲情してキスマークをつけてしまった。すると想もしたがったので頑張らせた。でも不慣れだったから何度もやり直して……次第に上にずれて……シャツで隠れない位置だったのか!
「す、すみません」
「くすっ、私はいいけど……主人は仰天してしまうかも。ボタンもう一つ留めた方がいいかしらね」
「そ、そうします!」
想のお父さんには刺激的だ。
可愛い息子が、図体のデカい俺の身体にキスマークを残すなんてさ!
そういえば想は、大丈夫だったか。
ちゃんとボタン留めているよな?
慌てて覗くと襟元までしっかりボタンを留めて、お父さんと仲良く話している姿が見えたので安堵した。
あれは俺たちだけのヒミツだ。
お互いの身体に刻んだのは、愛の印だ。
「さぁ食事にしましょう」
「わぁ、お母さん美味しそう!」
「美味しい広島産の牡蠣が手に入ったからグラタンにしてみたのよ」
「いただきます」
アットホームな食卓だった。
パンもサラダもグラタンも絶品で、和やかな時間が流れている。
「さっきお父さんと何を話していたんだ?」
「お父さんが僕を隠し撮りをしていたんだよ」
「え? どんな写真だった?」
「子供の頃の寝顔だったよ」
「お父さん! それお宝だ! 俺にも分けて下さい」
「ははっ、ダメだ」
「えぇ~」
「君はこの先いつでも見られるだろう」
「まぁ、それはそうですが」
「お、お父さん~」
どうやら想のお父さんは、俺と冗談を言い合うのが気に入ったらしい。
それで右往左往する想を見るのが好きと見た。
「駿くん、想の秘蔵写真は高くつくぞ」
「そこをなんとか」
「お父さん、もしかして、まだあるの?」
「まだまだあるぞ!」
「も、もう~」
笑い声の耐えない歓談の後は、プレゼント交換の時間だ。
「俺からはお二人にペアの手袋です。俺と想と色違いなんです」
「駿くん、私たちにまでいいのか」
「はい!」
「私たちからはお揃いのボアのスリッパだよ。君のマンションには床暖房がないから重宝するだろう。二人とも足下を冷やさないようにな」
感激だ。俺にまでもらえるなんて……
「想にはこれだよ」
「ありがとう、お父さん、お母さん」
「さぁ、開けてごらん」
「うん……あっ、これって……あの時のパジャマ?」
「あぁそうだよ。大人用だ。定番なので、今でも毎年作られているのさ」
「嬉しいよ。あの僕も偶然パジャマを選んだんです」
「それは嬉しいな」
想が両親からもらったパジャマは、想が小さい頃着ていたものと同じ柄らしい。俺の記憶にはないので、8歳より前の話なのだろう。
「想が着ている所、今すぐ見たい」
「えっ……でもまだお昼間だよ?」
思わず強請ってしまうと、想は動揺したがお父さんとお母さんは賛成してくれた。
「想、着てみておくれ」
「でも……ぼ、僕だけなんて……」
「なぁに、俺も着るよ」
「駿も? だってパジャマは家に」
「持って来た」
「えぇ」
「嬉しくてさ~ 肌身離さずだ」
俺のは、想のパジャマと色違いのような、グリーンとブラックをベースにしたブラックウォッチだった。
「君たちが着るなら、お母さんとお父さんも着替えよう」
「え?」
想がまた驚いて目を見開いた。
「想がくれたパジャマを早く着てみたい。これを『パジャマパーティー』というのだろ?」
「お、お父さんが言うと少し変かも……」
「そんなことない。お父さんだって可愛いことをしてみたい」
「くすくすっ、あなたってば、想が気持ち悪そうよ」
「えー そうなのか」
「ううう……ううん、お父さんも着て!」
あれ? 想の家ってこんなに明るかったか。
この冬は銃撃という暗黒の世界に落とされたような暗いニュースから始まったが、今は雪明かりの世界のように清らかで暖かい。
「よし、由美子、着替えを悪いが手伝ってもらえるか」
「えぇ」
ポカンとしている想の肩を叩いてやる。
「想、俺たちも着替えようぜ! クリスマスを楽しもう!」
「そうだね! 4人でパジャマパーティーをしよう」
想が小さな子供のように甘く微笑む。
あぁ俺はこの優しくはにかむ笑顔に、かつてノックアウトされたんだ!
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子供時代の想の可愛らしいイラストは、エブリスタの15スター特典で。
あの可愛らしい微笑みに、駿はもう一目惚れだったのでしょうね💕
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