157 / 161
聖なる初恋 11
早速俺たちは、想の部屋でパジャマに着替えることにした。
「駿、どうかな?」
「可愛い!」
大人しくて優しい顔立ちの想には、暖色系のパジャマがよく似合っていた。
顔色が良く見えるし、まるで熟れた果実みたいだ。
「やっぱり冬は赤だよな~ 想、美味しそうだ」
「そ、そうかな? さっきチラッと話題に出ていたけど、小さい頃、同じ柄のパジャマを持っていて大好きだったんだ。着ていると元気になれる気がして」
「それ分かるよ! 赤を身につけると、やる気がアップして積極的な行動を取れるし、元気になる活力を感じるから、健康になれそうだもんな!」
想を抱きしめ、胸元に埋めてやった。
昨日は何度も一つになれたから、まだ身体が繋がっているみたいだ。
「しゅーん、赤は繋がりの色なんだよ」
「ん? 繋がり?」
「うん、身体を流れる血の色と同じだから、身体の組織を繋げて生かしてくれる命の色だよ。あっ……もしかして、あの時……」
何か思い出したのか、想の顔色がサッと変わった。
「どうした?」
「あれは夢ではなかったのかな? お父さんが僕を助けてくれたのは」
「夢?」
ベッドに座らせ落ち着かせてやると、想がぽつりぽつりと幼い頃見た不思議な夢の話をしてくれた。
5歳の想はクリスマスイブの晩に喘息の大発作を起こし、しかも高熱も併発し生死を彷徨ったことがあると。
そこまで危ない状況に陥っていたとは……
聞いていて、ぞっとした。
その時、夢でお父さんに会って、家まで手を引いて連れて帰ってもらえたと。
「お父さん……あの時、足を怪我していたんだ。血がポタポタ流れて痛そうだった。だから僕も頑張って歩いたよ。胸が苦しくて辛かったけれども、お父さんも痛む足を引き摺って頑張っていたから、ゆっくりゆっくり二人で支え合って戻って来たんだ。この世に!」
話の途中から、想は頬を静かに濡らしていた。
「想、その時夢で会ったお父さんは……もしかしたらこの前危篤だったお父さんだったのかもしれないな。だとしたらお父さんが想を救い、想もお父さんを救ったんだ」
「僕が?」
「あぁそうだ。想だから出来たんだ。想はすごいよ、最高だ」
腕の中にいる想に、感極まって何度も何度もキスをしてしまった。パジャマ姿の想が可愛くて、止まらなくなった。
「あっ……んっ……」
「想、想……元気なってくれて良かった。ここにいてくれてありがとう」
夢中でキスをしていると、廊下から声が聞こえた。
「そろそろケーキを食べましょう」
そこでようやく我に返った。
「想、大丈夫か」
「う、うん」
二人とも体中が火照っていた。
「駿……大丈夫?」
「想の方こそ」
「ん……あっ……これは……駿お得意の『シバラクオマチクダサイ』状態なのかな」
想がサラサラな前髪を揺らして、甘く微笑む。
うぉ~ 煽るな。
「その台詞は、俺の専売特許だぞ」
「そうなの?」
「いや、想ももう同類だな」
「くすっ、駿と一緒なら何でも嬉しいよ」
「いいのか~ こんなこともされちゃうぞ」
そっと下半身の膨らみを撫でてやると、想が真っ赤になった。
「もっ、戻れなくなるよ!」
俺たち男同士だ。
欲情したら勃つし、興奮したら欲しくなる
シンプルに出来ているよな。
お互いの身体の状態が手に取るように分かるが、嬉しい。
****
「随分、遅かったね」
おっと、つい野暮なことを言ってしまった。
「あ……えっと、その……」
想はドキッとした表情で、しどろもどろになっていく。
こういう素直な反応は相変わらず可愛い。
「ははっ、パジャマ、よく似合っているよ」
「お父さん、また買ってくれてありがとう」
「あぁ、お父さんも気に入ったよ」
「お母さんと同じにしちゃった」
「ペアだな」
「うん!」
想が贈ってくれたものは、赤と白のタータンチェック柄のとても上質なパジャマだった。
「仕立ててくれたのか」
「うん、セミオーダーだけど東銀座のテーラーで」
「とても上質な生地と丁寧な縫製だ」
「とても素敵な店主なんだ」
「なぬ? 何者だ?」
「あ、えっと英国で出逢った方で」
「なぬ? それは一度お父さんも挨拶しないとな」
「お父さんってば」
あまりに可愛い息子なので、つい過保護になってしまう。
もうとっくに成人した息子なのに……
反省していると、駿くんが話し掛けてくれた。
「お父さんのスーツ、みんなで見立てるのはどうですか」
「……あぁ、駿くんも来てくれるのか」
「はい!」
駿くんは本当にいい子だ。
爽やかで明るくて、好感が持てる。
想は優しい心根の男と恋に落ちたのだな。
彼を知れば知る程、実直さに惹かれ、想を任せられるのはこの男しかいないと確信が持てる。
「君も一緒がいい」
「ありがとうございます」
おや? 駿くんを見上げると、首筋に赤い痕が一つ、二つ……
なんと、三つも!
あれは、想がつけたということになるのか。
私は見なかったふりをして、心の中で密かに喜んだ。
想も受け身なだけではない。
積極的に駿くんを愛している証拠だ。
一人の男として、彼を愛しているのだ。
ともだちにシェアしよう!