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聖なる初恋 12
「想、想……もう起きないと会社に遅刻するぞ」
「え?」
朝目覚めると、駿の腕の中にいた。
「……今日は日曜日だよ? クリスマスなのに……早起きするの?」
「えっ、いやいや月曜日だぞ? クリスマスパーティーは夜だから、その前に仕事に行かないと」
「え? あ、そうか……僕、一年前の夢を見ていたのか」
「幸せそうな寝顔だったぞ。去年は日曜日だったな」
「うん、パジャマパーティー楽しかったね」
「あぁ、今年もあのパジャマ持参で行こうぜ」
「いいね」
ベッドサイドのカレンダーを見ると、先程まで見ていた夢の丁度一年後の暦になっていた。
お父さんがカイロで銃撃されて大怪我を負い重体になったのは、もう一年前の出来事だ。
お父さんと帰国して……春夏秋冬、僕はとても穏やかな時を過ごせた。
僕の傍らには、いつも駿がいてくれた。
「おはよう、駿」
「おはよう、想、今年もクリスマスの朝を一緒に迎えてくれてありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
白い毛布に包まって、清らかな朝のキス。
それから二人でスーツを着て飛び出した。
去年もそうだったが、今年もクリスマスイブから駿の家に泊まり込んだ。
聖なる夜は恋人同士の熱を高め、情熱的な一夜だった。
まだ余韻の残る少し怠い身体。
「想と朝まで一緒にいられて幸せだった」
「僕も幸せだった」
離れがたい気持ちを抱えたまま、それぞれの職場へ向かった。
夜にはお父さんとお母さんと、もちろん駿も一緒にクリスマスパーティーをする。それが楽しみだ。
お父さんはあれからリハビリに励み、ついに先月、車椅子から解放された。まだ外出時は杖をつくが奇跡的な回復だと医師に驚かれた。
仕事は結局辞めずに続けている。ただし自宅でテレワークという特別待遇で……だからお母さんと過ごす時間が増えて、二人は楽しそうだ。
僕は変わらずに実家で寝起きし、毎朝駿と交差点で待ち合わせして出勤している。
「想、どうした?」
「うん、とても幸せでとても穏やかな毎日だと」
「そうだな。一年かけて、漸くここまで辿り着いたからな。お父さんが車椅子から解放されて良かったな」
「お父さんが立ち上がって歩けるようになった瞬間の喜びを、駿と分かち合えて嬉しかったよ」
「感動的だったよ。俺たちはいつも一緒だ。喜びも悲しみも、これからも全部共有していこうな」
ただ最近の僕は少しだけ欲張りだ。
もっと一緒にいたい。
ずっと一緒にいたい。
そんなことばかり考えてしまうなんて。
「どうした? 少し元気ないな、夜には会えるよ」
「ごめん、大丈夫だよ。仕事頑張って」
「想もな」
****
その晩、僕は駿と仲良く自宅に帰宅した。
「ただいま!」
「あら、二人とも一緒だったのね」
「駅で会ったんだ」
「相変わらず仲良しさんね」
「お父さんは?」
「書斎よ」
僕たちが手を洗って食卓に着くと、父さんがひとりで部屋から出て来た。
自分の足でスムーズに歩けるようになり本当に良かった。事故前は当たり前だと思っていたことは、けっして当たり前ではなかった。だからお父さんの一挙一動に感動してしまう。
「やぁ! 二人とも昨日は楽しかったか」
「あ、はい! 俺がラザニアを作って、想がスイートポテトアップルパイ焼いてくれたんです」
「なぬ? それは私の大好物だが」
「お父さんってば、ちゃんとアップルパイなら持ってきたよ」
「ありがとう……お父さんはラザニアも好きだが」
「わわ! それは腹の中です。すみません。想の倍食べました」
駿がギョッとした顔で、お腹を擦って焦っている。
「くすっ、お父さん、駿をいじめないで」
「はは、想も可愛いが、駿くんも可愛くてな」
お父さんはいつもこんな調子だ。
人が変わったみたいに軽口を叩いてくれる。
それが僕はとても嬉しい。
「俺たちお父さんの息子ですから」
「そうだな。そうだ、私たちから息子にクリスマスプレゼントがあるんだ」
「今年はなんですか」
「……二人への手紙だ」
「……手紙?」
お父さんから改まって手紙をもらうなんて、緊張してしまうよ。
「何かな?」
「想にとって良い事だよ、怖がらなくていい」
「今、読んでも?」
「あぁ二人で読んで欲しい」
封蝋された白い封筒を開けると、シンプルな言葉が並んでいた。
……
メリークリスマス。
想、駿くん、この一年間ありがとう。
私がリハビリをここまで頑張れたのは、大切な目標と夢があったからだ。
本当なら三年の任期を終え帰国した足で届けるはずだった言葉を、今年のクリスマスプレゼントとして贈らせて欲しい。
『そろそろ二人で暮らすのはどうか』
世間一般では『同棲』『同居』と言うのかもしれないが、私たちの中では『結婚』という意味だ。
二人の門出を心から祝福したい。
想と駿くんの新しい世界に幸あれと!
追伸……早速、新年からどうだ?
あとがき
****
楽しく書いて来た『今も初恋、この先も初恋』ですが、そろそろゴールが見えて来ました! いつまででも書いていられるのですが……一旦締めに入りますね。あと数話になると思います。頑張ります!
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