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聖なる初恋 13

 お父さんが背中を押してくれている。  お母さんも賛成してくれている。  それがしみじみと手紙の文面から伝わってきた。  僕の視界が滲み出すと、駿が肩をしっかり抱いてくれた。 「お父さん、お母さん、本当に……想と一緒になっていいんですか」 「あぁ、駿くんだからだ。この3年間、ずっと我が家を支えてくれた駿くんだから……8歳で想と出逢い、20年以上変わらぬ愛、いや深まる愛を注いでくれた駿くんだから任せられる。どうか最愛の息子のことを頼む」  あぁ……お父さんがあの日の空港でのように、僕を駿に託してくれる。 「お父さん……」  駿が、今度は僕の背中を優しく押してくれる。   「想、挨拶しないと」  僕は涙を流しながら、お父さんとお母さんの元へ駆け寄った。   「お……お父さん……お母さん」 「想ってば、そんなに泣いて……やだわ、私まで泣いちゃう」 「想、幸せになるんだよ」 「想、駿くんと仲良く暮らすのよ」  逞しい胸と優しい胸に抱かれ、もう涙が止まらない。  幼子のように泣きじゃくる僕を、二人が包むように優しく抱きしめてくれる。   「お父さん……お母さん、ありがとう。何もかも許し、認め、送り出してくれて……僕……二人の息子に産まれて良かった」 「それは私たちの台詞だよ。想、産まれてきてくれてありがとう」 「想は最愛の息子なの」  駿が一部始終を、目を赤くして見守ってくれる。  今度は父と母に背中を押されて、駿の胸に飛び込んだ。 「想、俺と一緒に暮らそう! 生涯を共に!」 「うん……駿とずっと一緒にいたい」 「よし! じゃあ誓いのキスをしてくれないか」  お父さんの言葉に二人とも真っ赤になった。 「は、はい」 「う、うん」    向かい合い瞼を閉じると、駿から誓いのキスを額に受けた。  すると少しだけ不満そうな声が聞こえてきた。 「なぬ? そこでいいのか。遠慮することない。海外では見慣れた光景だ。ちゃんとしっかりしてくれ」 「え? いや……流石にお父さんとお母さんの前では」 「まぁ照れているのね。あのね、告白すると、想のファーストキスは私たちだったのよ」 「えぇ?」  お母さんもお父さんも、こんな場面でそんな爆弾発言をするなんて。  やっぱり二人とも変わった。  明るくなった! 「ははっ、だから君は三番目だ」 「えぇ? そんなぁ~」 「ちゃんと証拠もある」 「えぇ!」  お父さんが目を細めて見せてくれたのは、まだ1歳か2歳の小さな僕がお父さんとお母さんの頬にキスしている可愛い連続写真だった。 「なんだ、頬か」 「お、お父さんってば、こんな写真も撮っていたの?」 「あぁ、秘蔵写真は他にもあると言っただろう。つい可愛くてな」  小さい頃は唇にもしたような気もするけれども……それは駿には内緒にしておこう。  それに僕の唇は、もう永遠に駿のものだから。 「駿、落ち着いて、こっちを向いて」 「そ、想……?」  今度は僕の方から背伸びして、唇をそっと重ねた。 「まぁ、想ってば」 「うむ」  お父さんは満足気で、お母さんは少し恥ずかしそうだった。  そして、誰よりも駿の顔が赤くなっていた。 「そ、想は時々大胆だー!」   その後、皆、パジャマに着替えてクリスマスパーティーをした。 「お父さん、お母さん、来年も再来年も、ずっと一緒にクリスマスパーティーをしようね」 「あぁ、そうしよう」 「お正月も一緒に過ごしたいな」 「想、元旦は二人でゆっくり過ごすといい」 「あ……うん」  そうか来年からは駿と一緒に暮らすんだ。  改めてそのことを噛みしめていた。 「想、じゃあ三日は我が家でパーティーをしようぜ! 両方の親を呼んで」 「あ……うん、いいね。そうしたい」 「お父さん、お母さん、俺たち……その……孫は無理ですが、この先、沢山一緒に過ごせます。沢山そんな機会を作らせて下さい」 「ありがとう。ぜひ、そうしてくれ」 「駿……ありがとう」  僕が言い出し難いことを、駿がサラリと乗り越えてくる。  だから好きだ。  僕は駿と生きていく。    駿の宣言に、また一段と胸が熱くなった。  翌日には、駿のご両親にも伝えた。 「その報告、ずっと待っていたわ。想くん、駿をよろしくね」と手放しで喜んでもらえ安堵した。  双方の両親の深い理解と応援のもと、僕たちは一歩踏み出す。    そして大晦日。 「想、もう荷造りは終わったの?」 「うん、だいたいね」 「あら? スーツケース一つ? それだけでいいの?」 「うん、都度取りに来るよ」 「そうしてもらえると嬉しいわ」  家具や寝具はこの3年かけて駿と選んだので、僕が持って行く物は本当に少なかった。  取りあえず、冬服のみにした。  徒歩10分の距離だ。  また来れば良い。 「想、ありがとう」 「お母さん、お父さんと仲良く過ごしてね」 「えぇ、今は毎日お父さんが家にいるから、忙しいくらいよ」 「ふふ、楽しそうで良かった」 「想もね」  お母さんには小さい頃から、いつも心配をかけてばかりだったね。  病気のことも、友人関係のことも……身体も心も辛い時、お母さんの存在がいつも支えで救いだった。  そして駿を最初から全面的に受け入れてくれて、ありがとう。  まるで最初から全てを見通していたようだ。 「想、こうなって良かったわね」 「そう思ってくれるの?」 「当たり前よ。あなたは私が産んだ子、あなたの幸せは私の幸せよ」     

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